「フォード・モーター、キャタピラー、ダウ・ケミカル――。米企業が相次ぎ同国内での生産拡大を進めている。「メードインUSA」が息を吹き返しつつある要因は何か。自らも製造業回帰を成長戦略の柱に掲げる米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルト会長兼最高経営責任者(CEO)に聞いた。
――米製造業の復活は本物か-—『本物だ。米国では競争力のあるものづくりが可能になった。この30年間で製造業の競争力を左右する要素が劇的に変わった。要因は3つある。まず、(工場の自動化などで)生産コストに占める人件費の割合が低下した。今では材料費の割合が大きく、より重要になった。もう1つは、3D(3次元)プリンターのような新しい製造技術が登場し、生産性が向上したこと。3つ目は市場に近いということだ』
高まる生産性
――過去に失われた雇用は戻ってくるのか--『私の答えは『徐々に』だ。雇用が増えることは間違いないが、一方で製造業の生産性は自動化などによって飛躍的に高まっている。バーモント州にある当社の航空機部品工場の場合、従業員の数は3割増えたが、生産性は2倍に高まった』
――『シェールガス革命』の影響もあるのか---『メキシコを含む北米地域は、莫大な量のエネルギーを手にしたことで、柔軟性と持続力を得た。米国の天然ガス価格が100万英国熱量単位(BTU)あたり3ドルで、日本が18ドルだとすると、大きな製鉄所の電力料金(1キロワット時あたり)は米国が0.05ドルで、日本はその3倍ぐらいになる。この差は競争力に大きな影響をもたらしている』
データ分析重要
――今後、いわゆる「ビッグデータ」の活用が製造業を変えるとの指摘もある。どう見るか---『世界には膨大な数のGE製品が稼働している。製品はなぜ故障するのか。どうすれば予期せぬダウンタイムを減らし、顧客の生産性を高められるのかを研究するなかで、データと、それを分析する能力の重要性に気付いた。すべての企業は今後、程度の差はあれデータの活用に投資をしなければならなくなる。これが未来の姿だ。変化は始まったばかりだが、我々はこの巨大な波をリードしていくつもりだ』」
生産性の上昇でアメリカの製造業は復活した
GEの航空機部品工場で生産性が倍になったという。自動化の効果だ。このような流れが日本の工作機メーカーのアメリカでの工場拡張につながっている。同日の日経新聞の記事から知ることができる。
日本の工作機メーカーが北米の生産体制を拡大
「工作機械メーカーが北米の生産体制を増強する。DMG森精機は米国工場の生産台数を月40台に倍増。ヤマザキマザックは来春、生産能力を月200台と現行に比べ約5割増やす。海外での受注が伸び悩むなか、ものづくりの国内回帰が進む米国では、自動車や航空機向けなど幅広い分野で需要が拡大している。製品の供給体制の整備を急ぎ、成長市場の取り込みを狙う」。
「日本工作機械工業会によると、1~8月の工作機械受注額(確報値)は前年同期比16%減少した。特に海外向けは中国の落ち込みが響き全体で19.7%のマイナス。ただ国内景気の回復などを追い風に自動車などの生産拡大が続く北米向けは11.3%増と伸びている。米財政問題の混迷が長引けば現地メーカーの設備投資に影響が出る可能性もあるが、工作機械各社は自動車向けなどを中心に当面は堅調な需要が続くとみて攻勢に出る」。
もう一つ見逃せないイメルト会長の指摘はビッグデータ活用だ。
製品は顧客に販売し、導入して取引が終了するのではない。導入した瞬間から新しいサービスが始まる。販売した製品にセンサーやGPSを取り付け、製品の稼働状況をモニタリングして、保守サービスやオペレーション指導サービス、果ては稼働率の向上を支援するサービスなどを提供することが可能になるのだ。
ロールスロイスはすでにビッグデータによる保守サービスを実現した
「航空機エンジンのロールスロイスでは、製品から得られたデータを基に、10年かけて事業を全面刷新した。英国のダービーにあるオペレーションセンターから、3700基以上のジェットエンジンの動作状況を絶えずモニタリングして、故障発生前に問題点を見つけ出す体制を整えている。このデータを使って、製造事業を『替え刃型』のビジネスモデルに転換した。
替え刃型とは、カミソリ本体は安価に提供し、替え刃で儲けるかみそりメーカーのビジネスモデルから命名された。ロールスロイスはエンジンを売ると同時に、モニタリングサービスも提供し、エンジン使用時間に応じた料金(や故障時の修理・交換料金)を請求する。
民間航空機エンジン部門の年間売上高の内、このサービス収入は70%を占めるまでになった」。(ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ著『ビッグデータの正体』)
コマツのKOMTRAXも建機に取り付けられたセンサーやGPS活用による、保守サービスのビジネスモデルの典型事例だ。
経営トップはIT活用にこれまでとは比較にならないほど高い関心を払わなければならない
ITは業務効率化といういわば縁の下の力持ち的な存在から、売上高の拡大に直結するという意味での衝撃的なパワーを発揮する存在に変る。経営のなかでITをそうした存在に変えていかなければ企業価値の拡大は望むべくもない。
従って経営TOPはITに対する態度を大きく転換し、これまでのようにIT部門に丸投げしておくのではなく、経営戦略の実現に不可欠の道具として、常に高い関心を払うようにしなければならない。
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