「牛丼最大手の『すき家』を運営するゼンショーホールディングスがスーパー買収に積極的だ。2012年11月に首都圏の中堅、マルヤを買収したのを手始めに13年10月にマルエイ(千葉県市原市)を、11月には栃木県南部を地盤とする山口本店(足利市)を傘下におさめる。ゼンショーのスーパーは約60店に達する見通しだ。
牛丼は吉野家HDが4月に並盛りを280円に値下げするなど競争は激化し、すき家の既存店売上高はマイナスが続いている。だが同社は牛丼の落ち込みをカバーするための目先のM&A(合併・買収)戦略ではないと強調する。
ゼンショーHDの小川賢太郎社長は『世界中に食のインフラを作ることが使命』と話す。原材料の調達から製造・物流・小売りまで一貫したサプライチェーン(供給網)作りに力を入れ、北海道の直営農場で約1000頭の牛を肥育し、一部の農産物で実験栽培を始めた。現時点で食材は外部仕入れが大半だが、総合的なフード企業への脱皮が目標。牛丼はあくまで販路の一つにすぎず、外食より利用頻度が多いスーパー買収で『顧客との接点を広げる』(同社幹部)」。
なぜ牛丼チェーンがスーパーを買収するのか
「すき家」を経営するゼンショーホールディングスの経営ミッションは『世界中に食のインフラを作ること』だと表明されているように、ゼンショーのビジネス領域はもはや牛丼チェーンだけにとどまらない。
すでにゼンショーは肉牛の飼育や農産物の栽培を手掛け始めたという。この延長線上には牛肉の生産から小売りまでの、あるいは農産物の生産から小売りまでの一貫したサプライチェーンの構築が標的として設定されている。したがってスーパーマーケットの買収はこのビジョン実現の工程表の一部に埋め込まれていて不思議ではない。
しかしそうだとするなら畜産や農業での投資をもっと本格化してからスーパーマーケットの買収に向かえばいいのではないだろうか。
なぜスーパーマーケットの買収を急ぐのか
すぐに思い浮かぶのは原料の供給に対する需要の創造が先決だからという答えだ。しかしこれは最優先の問題ではない。需要はいざとなれば価格訴求によっていくらでも獲得できるからだ。
畜産や農業の成功要因はなんだろうか。今しきりに規模拡大が叫ばれている。規模の拡大による土地生産性の飛躍的な向上は、グローバル競争に勝ち残るうえで避けて通れない。しかし規模拡大は成功要因の必要条件ではあるが、十分条件ではない。
もっとも大事なことは消費者目線での品質と価格(つまりはコスト)を実現することだ。これまでの畜産業や農業は残念ながら消費者目線での品質と価格の保証に努力してきたとは言い難い。ある意味で供給者目線での品質と価格がまかりとおってきていた。
したがって供給者目線から消費者目線への大転換が求められているわけだが、その実現の早道は消費者目線の品質と価格を供給者に伝え、規格として提示してこれを保証することを供給者に要求することだ。そのためには消費者との接点でビジネスを展開し、消費者の要求する品質と価格の実態を日々把握してそれを供給者に伝え実現することがもっとも優先順位の高い実行課題になるというわけだ。
日本の農畜産業の革新はゼンショー方式が拓く
生産者が直接消費者につながることが日本の農畜産業を革新するための成功要因ということになるわけだ。しかし実態はこの姿からは程遠い状況にある。
たとえば乳牛生産者は自分のブランドを持って消費者に直接供給することは不可能に近い。なぜなら乳牛生産者は補助金をうけているのだが、補助金を受け取る条件として全量農協に納入しなければならない。自前のブランドを立てて消費者に一部でも直接販売することを企画すると補助金をあきらめなければならなくなる。
乳牛生産者の保護が逆に生産者の企業家精神の高揚を阻害する結果を生んでいるというわけだ。こうした状況を改めて生産者が消費者との距離を縮めるためには、消費者に近いところから生産者に接近するあるいは直結する方式がもっと拡大することが望まれる。したがって日本の農畜産業の成長はこうした方向を助長するために公的な支援が集中的になされることによってのみ拓かれるはずだ。
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