キャノングローバル研究所研究主幹の山下一仁氏の講演がありましたので聴きに行きました。コーポレート・ガバナンス・ネットワークの主催でした。
山下氏は元農水省課長で2008年に退官されています。農水省の基本政策に反する論陣を張っていることをみても農水にいづらくなっての退官ではなかったかと考えます。。
山下氏の主張は、農協組織が日本の農業問題のがん細胞だ、という至極もっともな論旨です。
農協はいまだに社会主義政策を引きずっています。農協の下では農家は平等に扱われます。例えばお米の場合、農家がどれほど品質向上に力を入れても結果的にすべての農家のお米が混ぜられてしまい、おコメの値段はすべての農家で同一価格になります。これでは品質向上の努力は誰もしなくなります。つまり農協の平等は悪平等なのです。
カルビーは農協のこの弊害にいち早く気付いて農家との個別契約方式を取り入れました。そしてカルビーは品質規格を明確に定めて、収穫時にポテト品質の格付けを行い、格付け毎に購入価格を変え、品質向上に努力をした農家が収入面で優位になる政策を実施してきました。
農協の問題は現在のコメの価格維持政策に集中して顕れています。仮に関税を引き下げたり、ゼロにすると、農協の販売価格は下がります。すると販売価格に比例する販売手数料が下がり、農協は収入減少の事態に陥ってしまいます。
ですから農協は死に物狂いでTPPに反対するのです。自民党も阿部政権もこの農協の反対には逆らえません。それだけの政治力を農協は持ってしまっているのです。
米価の関税引き下げをアメリカは要求していますが、最終的にはアメリカは自動車関税の残存を取引条件にコメ関税の残存を容認することで妥協に至るとみられます。
しかしこうした方向は日本の農業の改革を大きく後退させることにつながります。そして消費者は農家保護の財政負担と米麦の高価格と言う二重苦を背負い込無現状から自由になることはできないのです。
山下氏の講演内容のエッセンスを下記にご披露いたします。面白い事実がたくさん開示されていますのでお目通しください。
1. 米作農家の農作業日数は2010年で年間30日に過ぎない。1951年には年間251日であった。
2. 農家数は減少を続けている。1990年に383万戸であったが2010年には252万戸に減少している。しかしこのうちの専業農家は1990年47万戸、2010年は45万戸と変化していない。しかし総所得の内農業所得が50%を超える主業農家数は1990年83万戸から2010年には36万戸に減少している。高齢化した小規模専業農家が増加していることが覗える
3. 農家数は252万戸にしか過ぎないのに、農協組合員は正組合員が470万人、準組合員が520万人と1000万人に近い数に上る。
4. 農家所得の内訳は農業所得が10%、農外所得が60%、年金等が30%になっている。
5. JAバンクの総預金額は82兆円。国内銀行の第二位
6. 農産物関税を撤廃すれば農産物価格は下がって消費者は大きな恩恵を受ける。農家に対しては補助金の農家への直接支払いをして価格低下による所得減を補えばよい。価格維持のために財政負担するよりきわめて合理的だ。しかしこの策は農協の価格に応じて決まる販売手数料収入の減少につながるので、農協が死に物狂いの抵抗をする。TPP問題は農業問題ではなくて農協問題
7. 香港での日本のコメ評価は最高。日本産コシヒカリ:380円/㎏、カリフォルニア産コシヒカリ:240円/㎏、中国産コシヒカリ:150円/㎏
8. 日中米価は接近していて関税がなくても大丈夫。日本産米価:12,826円/玄米60㎏、中国産買い入れ価格:8,704円/玄米㎏、中国産売却価格:11,202円/玄米㎏
9. 減反政策で農家の努力による反収向上が停滞した。
10. 減反政策で5000億円の財政負担。減反補助金2000億円、所得補償3000億円。コメの高価格維持で消費者は6000億円の負担。
11. 農業改革は減反廃止と補助金の直接払いで実現する。
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