消費税の価格転嫁はむずかしい

全額転嫁は３９％

 

日経新聞の調査では消費税増税分を全額価格に転嫁できると答えたメーカー、卸は３９％に過ぎなかった。

 

「来年４月の消費税率引き上げ時に増税分を取引業者に「全額転嫁できる」と考えている食品や日用品の製造・卸業者が全体の39％にとどまることが、日本経済新聞社の調査でわかった。転嫁カルテルを容認する国の政策支援もあり1997年の前回増税時を９ポイント上回る。だが、小売業者の値引き圧力が強く「全額転嫁が難しい」との回答も34％あった。転嫁が円滑に進むかどうかは、来春以降の物価・経済動向に影響を与えそうだ。

転嫁を巡る小売り側との交渉は年明けから本格化するが、「小売りの理解が得られない」（29％）、「景気回復が不十分」（18％）との見方が根強い。

日銀は2014年度に消費税率引き上げの影響を含め、3.3％程度物価が上がると見通している。このうち税率引き上げによる物価上昇分は2.0％。増税分が課税品目全てに全額転嫁されることを前提にしているが、日銀の想定通り進む可能性は低い。

食品や日用品は増税分だけでなく、円安に伴う原料高の転嫁という課題も抱える。「転嫁に時間がかかれば立場の弱い中小企業の収益が悪化し、投資や雇用などに影響が出る可能性もある」（丸紅経済研究所の美甘哲秀所長）状況だ」。（日本経済新聞2013.12.18）

 

消費の低迷で景気回復は失速する

 

消費税増税分を全額価格に転嫁できない状況やできても部分的にしかできない状況は、小売りが価格転嫁をしたら消費者が買い控えなどで抵抗するとみているからだ。

それでなくても円安による輸入原材料の家格上昇で生活必需品の需要が伸び悩んでいるときに、増税が行われることで消費者の選択は消費支出の抑制に向かうに違いない。

一方ではメーカーや流通は円安や消費税による価格上昇分を何とか企業努力によって吸収するためにコストダウンに向かわざるを得ない。つまり人件費や原材料費などの支出の抑制が生じることになる。

こうして企業も消費者も支出の抑制に向かうことで消費支出の縮退が生じる。またこうした支出抑制は企業の売上高の低迷と減益の要因になる。これらが折り重なって景気回復の腰折れが生じることになる。

 

結局財政再建は遠のいてしまう

景気回復シナリオが挫折することによって税収は減少する。結局消費税増税が目指す財政再建の道は、税収の伸び悩みによってふたたび悪循環の迷路に陥ってしまうことになる。

 

企業努力の向け先はイノベーション

 

円安や消費税増税による消費の抑制が避けられないことを前提に、企業はそれでも成長を目指さなければならない。成長のけん引力はイノベーションだ。イノベーションしか顧客創造に寄与しないからだ。

イノベーション推進においてもっとも大事なことは、イノベーションは企業の中の専門部署だけが担当して実現するものではないという認識だ。つまり企業全体でイノベーションに取り組むことが求められているのだ。

それには現場からトップまでそれぞれの立場でイノベーションに参加することができるように組織の在り方を変える必要がある。そしてなによりも企業メンバーの誰もが参加できる組織文化を創ることが求められているのだ。

ゲイリー・ハメルは「経営は何をすべきか」（ダイヤモンド社刊）で次のように述べている。

 

「もしもあなたがマネジャーなら、社内のアイデア掲示板に、以下のような簡単な質問を乗せよう

・少しだけ配慮が足りなかったせいで、お客様をいらいらさせている事例はないだろうか。どうすれば改善できるだろう

・コストをほとんどかけずに、お客様にささやかながらもうれしい驚きをお届けするために、妙案はないだろうか

つまりは顧客が『仕方ない』とみなし、伝統的企業がほとんど無視している不便、負担、いらだちなどに着目する」

 

イノベーションが以上の打ち手で始められるなら、イノベーションはそれほど困難なことではない。大上段に構えすぎていたことに気付くべきだ。組織のメンバー全員で気軽にイノベーションの手がかりを見つける行動を起こせばいいというわけだ。