「インフェルノ」の舞台は魅力的だ
ダン・ブラウンのラングドンシリーズの第4作目。イタリアのフィレンツェとジェノバが舞台になる。ダン・ブラウンの著作のだいご味はまずは舞台となるフィレンツェやジェノバがまるでその場に居合わせているかのように詳細に描き出されていることだ。町並みだけでなく、ベッキオ宮殿や大聖堂などの歴史的な建築群の描写もさることながらそこにある芸術作品の描写も生き生きとしていて、思わずそれらの作品をググって現物を鑑賞したくなり、そのことでさらにこの小説の中により深く入り込むことになるというわけだ。
人類的大問題に引きずり込まれる
二つ目のだいご味は現実社会で起きている人類的な大問題について大胆な問題提起とその解決策の一つを提示してくれていることだ。人類的な大問題とは人口の爆発的な増加とその結果としての大飢饉だ。1798年にすでにマルサスが「人口論」で警告した人口問題は今世紀中に深刻度を加速度的に高めて、50年後には人類という種の滅亡にまで行き着くと予想されている。
この大問題に真正面から取り組む思想集団がある。「トランスヒューマニズム」を信奉する集団だ。彼らは人類の産み出した最先端の科学技術を駆使して人類の主としての進化を加速させようと志向している。遺伝子工学や電子工学を駆使した先端医療技術が主の進化を飛躍的に加速させるというわけだ。
トランスヒューマニストたちが人口問題という人類の危機にどう向き合うかが「インフェルノ」の重き主題になる。
アリバイ・ビジネスとは何か
三つめのだいご味はこれまた現実社会で生起している信じられない闇のビジネスについての興味深々の実態を明らかにしてくれていることだ。
アリバイ・ビジネスというのがあるそうだ。浮気や勤務をさぼったりしたときにきちんとした言い訳を証拠をねつ造して提供するビジネスだ。アリバイビジネスの会社が提供するアリバイは、レストランやホテルの請求書、招待状、講演依頼、資料やメモ、飛行機や鉄道の予約、バッジ、ペン、男性または女性の声による電話など多岐にわたるらしい。
アリバイビジネスをきわめて大がかりに展開し、顧客も政府や大企業や大富豪などに限定して超高額の料金を請求する組織が「インフェルノ」には登場する。ダン・ブラウンはこうした組織が政府のでっち上げに組織的に加担し世界を欺瞞すると警告している。現に我々はないはずの核兵器があるという欺瞞工作を展開してイラクのフセイン政権を葬り去った事例を見ているではないか。
読みだしたらやめられない止まらない
これだけの材料をそろえるばかりか、息をも継がせぬスリリングな展開が矢継ぎ早に繋がる。だから読みだしたらやめられない止まらない「かっぱえびせん」状況にとらわれる。まる一日何もしなくてもいい日を無理やり作ってこの飛び切り上質なドラマに思いっきり浸ってみることをお勧めする。
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