日下氏は筋金入りの自由主義者であり、保守主義者である。だから日下氏の見解はいつもぶれることがない。しかも思考の道筋はつねに自由主義と保守主義の原点から組み立てられているので、根源的なあるいは徹底的な鋭さで貫かれている。
本書で展開された論考のなかから筆者が思わず目から鱗の体験をした指摘をいくつか取り上げてみよう。
アメリカとは州と付き合おう
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日本人はアメリカと言えば、日本と同じ単一国家と見がちだが、アメリカは州が集まってできた国である。アメリカと付き合うといっても、アメリカには50州あって、同じアメリカでも多様である。
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アメリカ全体とうまくやろうとするのではなく、それぞれの州によって実情は違うのだから、それをよく調べて、そのうちの半分以上である26州とうまくやればいいのである。
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財政赤字でパンクしかけている州が多くある。州が赤字になっても、連邦政府は助けない。各州は一つの国家と同じだから、赤字になっても「自分で何とかしなさい」となる。いずれ日本に「金を貸してくれ」言ってくることも考えられる。その時はトヨタがしたように、その州の裁判で日本企業が敗訴続きであればお断りすることになる。これをあらかじめ公表しておけば日本企業いじめの牽制になる。
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もう一歩すすめれば、親日州と反日州を何らかの基準によって指定し、ときどき変更するという外交も考えられる。日本の金を貸すのだから、日本が相手国の信用度合を測定して悪いことはない。良い基準であれば、世界中がその基準を使うようになる。そうなれば、日本スタンダードがそのままグローバルスタンダードになる。
たしかにアメリカは州の権限が大きい。例えばコロラド州がすべての成人に大麻を解禁する法律を施行したという事実がアメリカでの州の独立性を象徴している。だから26州を厳選してそれらとだけ深く付き合えば、アメリカとの真の戦略的な同盟関係が構築できるはずだ。
特定の州との互恵関係が深まれば他の州もその利害得失を考慮して、日本とうまく付き合えば相互の庶民の生活の向上に寄与すると判断すれば日本との関係の改善を目指した努力をすることになるだろう。
こうした州との関係改善の一つの方法として州が発行する州債をアメリカ政府の発行する米国債の替りに保有することも視野のうちに入れることになるだろう。
米国債を徐々に減らして州債に変えていくことで日本とアメリカの関係は今より数段多彩で豊かなものに変化していくに違いない。もちろん双方の庶民相互の関係も現状に比して比べ物にならないくらいに生き生きとしたものに進化していくことだろう。
国会議員選挙制度の抜本的な改革案はこれだ
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いまの選挙制度は、一票の格差の大きさや小選挙区での死に票が多いことなど問題が多い。さらには国会議員の数が多すぎるし、歳費が高すぎる。こうした問題を一挙に解決する方法として、私が提案してきたのは「全国一区制」である。
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決め方はいろいろ考えられる。国会議員の定数を先に300人なら、300人と決めて、上から順番に当選にするというのが一つの方法である。
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違う一つは、国会議員の定数を決めずに、15万票とったら当選とする。棄権が増えれば議員の数は減るし、投票する人が増えれば、それだけ増えることになる。民意がそのまま反映して気持ちがいい。人数を減らしたければ、当選ラインを上げればいい。
すばらしい提案だ。しかしこんな案に賛成する現職の国会議員はまずいない。賛成しやすいように日下氏はこの制度で落選した議員には5億円ずつ退職金を渡せば良いと、解決策まで用意している。現状の議員の歳費や議員にひも付きの公共事業などの削減を考えると格段に安上がりになるというのだ。
財政赤字の諸悪の根源は財務省である
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財政再建をするにはまず「財政規律」が大切で、それを守らなければいけない。財政規律が乱れたからこそ財政赤字になったのである。財政規律が乱れた根源は財務省と政治にある。
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消費税を増税する前にまずは財政規律をきちんとして、歳出のカットを行うのが本筋である。「大きな政府」から「小さな政府」にして、政府の事業をどんどんやめてしまえばいい。
歳入の範囲内でしか歳出を認めなければ財政問題は一挙に片がつく。歳入の制約を設けることであらゆる無駄遣いがあぶり出されてきわめて合理的な予算が策定されることになるだろう。
企業も家計も当に実現されるこのあたり前の行動が政府にできないわけがない。できないのは政治家や官僚がそれぞれにもっともらしい理屈を付けて野放図な無駄使いをしているからだ。
このような観点から日下氏にとって増税は政治家や官僚の無駄遣いの原資を増やすだけの愚行にしか過ぎない。官に使い道を任せるよりは民に自由に消費させる方がどのくらい合理的な使途が開発されるか計り知れないメリットがあるという見解。まさに自由主義者の真骨頂が表出されている。
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消費税に関しては、所得税などとの減税とセットにする直間比率の是正が必要である。所得税が安くなれば、手取り収入が増えるから、たとえ消費税が少し上がっても、購買意欲は衰えないであろう。収入が増えれば、働く意欲と納税意欲が高まり、政府の所得税収入は増える。
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財政規律とは支出を歳入の範囲内にとどめることだ。そして財政規律を実行する一番の早道は、民営化できるものはどんどん民営化することで、有料道路のように受益者負担にすればいい。
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所得も貯蓄も根本は働いた人のもので、その金の使い道は働いた本人に選択する権利があって、国家にはない。稼いだ金は本人に使う権利があるのだから、国家が月給から天引きするのは根本が間違っている。老後の心配があるのなら、自分で信託会社とかなんとかファンドに自己責任で預ければいいのである。
毛沢東曰く「中国共産党は日本のおかげで権力を手にすることができた」
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1964年7月当時の日本社会党委員長の佐々木更三ら訪中団が毛沢東と会談した時、毛沢東は次のように語ったという。「日本の友人たちは、皇軍が中国を侵略して申し訳ないと言いました。もし、日本の皇軍が中国の大半を侵略していなかったら、中国人民は団結して、これに反対して闘うことができなかったし、中国共産党は権力を奪取することができなかったでしょう。ですから、われわれにとって、日本の皇軍は立派な教師だったのです。なにも謝ることはありません。日本軍国主義は中国に大きな利益をもたらしました。おかげで、中億人民は権力を奪取できました。日本の皇軍なしには、私たちは権力を奪取することは不可能だったのです。この点で私とあなたの間には、意見の相違と矛盾がありますね」(大衆政治家佐々木更三のあゆみ)
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戦後の中国共産党の権力のもとは、日本が満州につくって置いてきた鉄道である。満州の工場で作った物資をその鉄道で流通させていた。それを押さえたのが共産党で、それが共産党の権力のもとだった。だから、満州に置いてきた日本の財産のおかげで共産党は中国で政権を取れた。
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戦前の話だが、欧米は日本にも中国にも外交人居留地を創らせろと要求して、それを実現したが、その時日本はいずれ全面返還を実現すると決意して、居留地の上限水道そのたの公共地業はすべて日本側の負担で行った。そのためやがて不平等条約の改正に成功した時は、簡単にそっくり居留地を受け取ることができた。いわば、分譲マンションではなく賃貸マンションにしたのである。
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しかし、中国はケチで、公共事業はすべて外国にさせたため、返還交渉はその買取価格の決定で難航した。外国は買い取れというが、中国は一円も出す気はない。おいて帰れと言う。そこで何十年も外国人居留地とその治外法権は存続した。
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それが解決したのは、大東亜戦争が始まって、日本が軍隊の力で外国軍を武装解除して疎開を接収し、さらにそれを中国に無償で引き渡したときである。
だからといって日本の中国侵略が無罪放免だということではもちろんない。かといってそれほど罪悪感にかられることも不要だということだ。過去のことを帳消しにするのではなくて、過去は過去できちんとその正確な理解を前提にした上で、未来志向の健全な友好関係を気づけばいいだけのことだ。
両国の庶民にとって最良の関係を目指すことこそ今もっとも重要なことだ。
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