厚労省の労働時間規制の緩和に向けた方針転換
「厚生労働省は専門職で高収入の人を労働時間の規制から外す方針だ。対象は年収1000万円以上を軸に検討する。時間ではなく成果で評価する賃金の仕組みを導入し効率の良い働き方を促す。労働規制の緩和に慎重だった姿勢を改め、政府が6月にまとめる新成長戦略の目玉とする」。(日経新聞2014.5.23朝刊)
労働時間規制緩和は経済成長につながらない
ところで労働時間規制緩和は果たしてどのように成長戦略につながるのだろうか。
1時間あたりの労働時間とアウトプットの関係が比較的明確な工場での労働と比べて、営業や企画開発、事務間接部門においては労働時間とアウトプットには明確な相関関係がないことが多い。
したがって営業、企画開発、事務間接部門においては、社員一人一人の生産性の差異が労働時間に反比例する状況が珍しくない。これが残業時間の長さを決めるので、生産性の高い出来の良い社員の収入の方がそうでない社員に比べて低くなってしまう弊害をもたらすことになる。
この問題に対する解決策として成果主義に基づく報酬制が考えられているのだとするなら、単に人件費の削減を目的とする政策であって、経済成長には結びつかない。
なぜなら労働生産性の向上だけが経済成長に直結するからだ。
労働生産性は二つのアプローチでのみ可能になる。一つは業務プロセスの改善、改革だ。もう一つは社員の能力向上だ。
成果報酬制はしごと改善や社員の能力改善には直結しない。ゆえに成果主義の賃金決定は生産性向上にインパクトを与えることにはならない。
むしろ時間規制が外されることで、ただでさえ残業が多く、長時間労働に苦しむ日本の営業、企画開発、事務間接部門で働く労働者に、さらなる長時間労働を強いることになりかねない。
労働時間による賃金決定のほうが大きなメリット
逆に成果主義ではなく時間による賃金決定の方が生産性向上に大きなインパクトを与えるともいえる。例えば時間内に業務を終了させようとするマネジメント側の意図が働きやすいので、これが業務プロセスカイゼンや、社員の能力向上の引き金になるからだ。
労働時間規制は現状のままに残して、日本中の企業が残業ゼロを目指して業務プロセスの改善・改革や社員の能力向上に必死に取り組むことが、労働生産性の向上につながり、結果として賃金の上昇余力が生まれ、更には社員の労働時間の大幅な短縮が実現し、結果としてワークライフバランスの最適化に近づくと考えられる。
こうして労働者の生活に時間的、金銭的なゆとりが生まれれば、健康で快適な生活に向けた新しい消費需要が生まれることになるはずだ。
かくして安倍首相は成長戦略に労働時間の規制緩和ではなく残業ゼロ社会を目指すことを掲げるべきだということになる。
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