エネルギー分析の第一人者である米シンクタンクHIS副会長のダニエル・ヤーギン氏のインタビュー記事日経新聞WEB版に掲載された。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM16H6K_W5A110C1I00000/
その要約は以下のとおり。
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今回の原油価格急落の主要因は原油の需給バランスが崩れ、供給過剰になったことだ。
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世界経済の成長鈍化で、BRICS諸国やEUの経済成長の減速で原油需要が軟化した。
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供給側では、米国のシェールブームが供給増加をもたらしたこと、リビアの供給が急回復したこと、その上にサウジアラビアが『原油価格調整』の機能を放棄したことが大きい。
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原油価格は今後も下げ基調を継続し、16年央まで底値を付けない動きになる。
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シェール企業の採算点は、1バーレル70ドルなら80%の企業が黒字。60ドルだと半分の企業が赤字になる。40ドルでは多くの企業が厳しい局面に陥る。
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シェールガス、オイルの掘削や採集の技術が日々進化していてシェール企業のコストは下がっている。今後はM&A(合併・買収)でコストを改善する企業も出てくる。
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今回の局面で勝者は原油を輸入に頼っていた日本と中国だ。特に日本はエネルギーの高いコストが製造業の競争力を損なっている事実がある。
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アメリカの原油輸出解禁の議論の行方に注目すべきだ。原油を輸出すると、国際市場に価格がさや寄せされ、ガソリン高につながると懸念されていたが、足元のガソリン安で、解禁議論が高まる。原油輸出は米国の世界への影響力をさらに高める。日本も(有数の原油産地の)アラスカから輸入できるようになる。
ヤーギン氏はサウジアラビアが「原油価格調整」機能を放棄したのは、米国のシェール革命に歯止めをかける狙いがあるという事実に触れていない。しかし今回の原油価格急落の仕掛け人はサウジアラビアであり、サウジは1バーレル50ドル以下の価格でアメリカのシェール企業の積極的な開発行動にくさびを打ち込もうとしているのは明らかだ。
そしてアメリカのシェール企業もこのサウジの攻撃を受けて立ち、40ドルでも成長可能になるためのイノベーションを継続するに違いない。
アメリカの原油輸出の解禁もシェール企業に世界市場への門戸を開くという意味で、シェール企業の競争力増強の流れの中で理解するべきだ。
かくしてOPECとアメリカとの原油を巡る競争局面が続く限り原油の価格は40から50ドルを均衡水準とするに違いない。
原油価格の低落はガソリン価格の低下をもたらすだけではない。日本の火力発電のエネルギー源である天然ガスの価格が原油価格の水準に比例して決まるという、極めて理不尽な契約によって、割高な天然ガス価格を甘受しなければならなかった。
原油価格の下落はこの状況を劇的に転換し、電力をはじめとするエネルギー価格の低価格化をもたらし、企業の利益増と消費者の可処分所得の増加に直結する。
まさに「安倍晋三首相はエネルギー安をいかし、経済を活性化する政策を『4本目の矢』として推進すべきではないか」というヤーギン氏の提言を真剣に受け止めるべき状況であることは間違いない。
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