家具小売り業世界最大手イケヤの日本法人イケア・ジャパンは昨年9月、従業員の7割にあたる2400人のパートを短時間勤務の正社員に切り替えた。社員の働き方はどう変わるのか。ピーター・リスト社長に聞いた。(http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150123&ng=DGKKASDZ06HYQ_S5A120C1TJ2000
日経新聞2015.01.23朝刊)
新制度のしくみ
「社員は1週間の勤務時間を12~24時間、25~38時間、39時間の3つから選べる。フルタイムなら39時間勤務、パートから社員になった人は短い勤務時間を選ぶ人が多い。ただポストや仕事の内容が同じなら、短時間勤務でもフルタイムと同じ時給換算の賃金を払う。同一労働・同一賃金の考え方だ。貢献度次第で昇格や昇給のチャンスもある」
「従業員も入社後に育児や介護など人生の様々なステージを迎える。その時々で働き方を選べるようになる。イケアでは『あなた(従業員)が成長すれば、イケアも成長する』という考え方がある。従業員とともに会社も成長するパートナーのような存在でありたい」
「今後は勤務時間が短い人でも管理職ができるようにジョブ・シェアリングを検討する。育児を抱えた人が2人で店長を務めるイメージだ。どんな局面でも働ける仕組みを考えたい」
新制度の目的
「正社員だろうがパートだろうが区別せずに、従業員一人ひとりの才能を平等に引き出す環境をつくりたかったためだ。従業員に話を聞くと、パート社員は『私はパートだからここまでしかできない』とか、仕事にブレーキをかけていることが分かった。これを取り払えば、従業員が最大限のパフォーマンスを出せる組織に変わると考えた」
新制度の成果
「数字の管理など、これまで正社員だけがやっていた業務を皆で分担するようになった。負荷を分けることで仕事の効率があがり、残業も減った」
新制度により人件費の負担が数億円増
「今回の施策は人に対する投資と考えている。新店舗の土地取得費用と同じく戦略投資だ。人事制度を変えてから離職率も下がった。勤務経験が長くなれば従業員の知識の水準も上がり、顧客サービスの向上につながると期待している」
「長期的な視点で成長を目指しているので、景気変動による短期的な浮き沈みが出ても気にしない。仮に業績が低迷したとしても、(全員が正社員になったことで)皆で知恵を出し合い、挽回を目指して力を合わせてくれるはずだ」
日本人の働き方
「勤勉で協調性がある点はスウェーデンに似ている。日本では一般に私生活よりも仕事に重きを置きがちで、長時間働く人が多い。だが長時間働いても生産性が高まるわけではない。イケアではむしろ短時間で最大限成果を出す人を評価するようにしている」
気付き
イケヤ・ジャパンのパートの正社員化は多様な成果を期待できる人材活用のイノベーションだ。
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正社員でもそれぞれの生活上の変化に応じて勤務時間の調整が可能になる。育児や介護に携わる社員が勤務時間を自在に短縮することができるようになる。もちろんその時期が終了した時に標準勤務時間に戻ることができる。結果として優秀な人材の離職を防ぐことができる。同時に経験豊かな人材の囲い込みが可能になり、労働生産性の向上が期待できる。
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時間当たりの成果の大きさによって賃金が決まるという本当の意味での成果主義の賃金体系が有効に機能するようになる。結果として残業が減少し、生産性が上昇する。
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労働集約的な事業は今後質の高い人材の雇用が困難になる。将来的にはパートアルバイトの給与は正社員並みに、あるいはそれ以上にしなければ求人が不可能になることも考えられる。こうした事態に対して先取りしてその困難を回避することが可能になる。
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以上のことから短期的には人件費が拡大するが、長期的には労働生産性の向上により、更には人材リクルート費用の減少により投資以上のリターンが期待できる。
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