「環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の妥結に向け、政府は牛肉・豚肉、乳製品など重要農産品の関税を引き下げる『TPP枠』をつくる検討に入った。項目ごとに低関税や無関税の輸入数量などを設定し、枠を超えた分は関税を上げて輸入増を抑える。農産物市場の開放を求める交渉国と、輸入増を警戒する国内生産者のそれぞれから理解を得ることを目指す」。(日経新聞2015.2.1朝刊)
低関税の適用の数量枠を設けて、これを超えた数量については高関税率を適用するという仕組みだ。これによって政府は関係国の理解を得てTPP交渉の歩みを早め同時に国内生産者にも配慮する姿勢を見せることを意図しているという。
「例えば牛肉は現在、TPP交渉に参加しているオーストラリア、米国、ニュージーランドを中心に年間約50万トンを輸入している。これをTPP枠として現行38.5%の関税を下げる。日本は対米交渉で牛肉関税を10年以上かけて10%前後に下げる調整をしている。こうした税率を他の参加国にも適用。輸入が増えたら税率を上げ、50万トンを超えると税率を大きく上げる仕組みを想定する」。(同)
しかしこのような小細工で他国の理解が本当に得られるとはとうてい思われない。この事例では牛肉の輸入量は現在50万トンであるから、50万トンの枠を設定するとしたら、牛肉の輸入量を現状に比べて大幅に増加させることは期待できない。TPP参加のアメリカ、オーストリア、ニュージーランド諸国は当然TPPで日本への牛肉の輸出量を大幅に増加させることを望んでいるはずだから、とうていこの案には乗ってこない筈だ。
この案はその意味で実現可能性は大きくないが、それにもまして大きな危険性をはらんでいることに気付かなければならない。
輸入枠を設定してそのコントロールを実施するには輸入量のコントロールをする機関が必要になる。つまり低関税の枠をどのように配分するかがまずもって問題になり、その配分を巡って調整機関が必要になる。
そして配分量がきまったら、配分先ごとに輸入量をリアルタイムにモニタリングする機関が必要になる。
このようなコントロール機関は当然のことながら業界団体が創ることになるだろうが、その機関は当然のことながら政府の監視下に置かれ、同時に役人の天下り先になることが目に見えている。
TPPの目的は域内でのマーケットを巡っての競争を自由化し、域内の消費者が選択肢を拡大し豊かな消費生活を実現することであるから、政府による輸入量のコントロールはそもそもその目的に照らしてあってはならない。
政府はまさにその本能に導かれて、TPPでさえ自らの権限の拡大の機会として活用しようとしている事を見逃すべきではない。
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