日本マクドナルドが2014年12月度決算で大幅な減収で赤字決算に追い込まれた。
「日本マクドナルドホールディングスが5日発表した2014年12月期の連結営業損益は67億円の赤字(前の期は115億円の黒字)だった。『使用期限切れ鶏肉』の問題を受け、客離れが加速。売り上げの落ち込みが響いて、01年の上場来初の営業赤字となった。全国で相次ぐ異物混入も重なり、外食業界の巨人が窮地にあえいでいる。
最終損益は218億円の赤字(前の期は51億円の黒字)。最終赤字は03年12月期以来11年ぶりとなり、赤字額は上場来最大だった。
鶏肉問題に関連した売上高の減少や在庫廃棄などの費用計上に伴う減益要因は合計で約180億円。連結売上高は14.6%減の2223億円となり、直営店とフランチャイズチェーン店を合わせた全店売上高は4463億円と7年ぶりに5千億円を割り込んだ。」。(日経新聞2015.2.6付朝刊)
消費期限切れの原料使用や、異物混入など安全・安心に対する消費者の信頼を裏切る事件が相次いで生じて大幅な客離れを起こしたことが直接的な原因だ。
こうした状況にあってなぜマクドナルドが危機に陥ったのか。本書はこの疑問にまさに的確に答えている。それは一言でいえば、「鶏肉の賞味期限」ならぬ「ビジネスモデルの賞味期限」が切れたことに尽きるという。
以下著者の論述を辿ってみよう。
QSC+V::マクドナルドの原点
マクドナルドが消費者の期待に応え続けてきた要素は、その創業期に確立されたビジネス・コンセプトにある。それこそがQSC+Vだ。
Q:品質(おいしさ)
S:サービス(注文してから提供までの時間の速さ)
C:清潔さ
V:お値打ち感
このコンセプトをひたすら追求してマクドナルドは世界に25,000店を展開し、700億ドル以上の売上高を実現する企業価値を獲得するまでになった。
マクドナルドのビジネス・モデル
マクドナルドは二つの収益源を持っている。一つはハンバーガー販売事業だ。もう一つは意外なことに不動産リース事業だ。
マクドナルドはアメリカではFCシステムでの事業展開が中心だ。そしてマクドナルド本部は土地と建物を所有ないし賃借りし、FCに賃貸している。このリース料が大きな収益源になっているのだ。
大きなリース収益の秘密はリース料が固定ではなく売上高比例でFCに課されていることによる。したがって売り上げが増加すればするほど不動産リース業の収益も比例して増大する仕掛けだ。
しかし日本マクドナルドはこの収益モデルに従順に従ったわけだはなかった。日本マクドナルドを創業した藤田田氏は米国マクドナルドのビジネスを日本流にアレンジして導入した。その日本流の典型が直営店をビジネスの中心においたことだった。つまり米国藻でウの標準はFC比率が70%であったが、藤田氏はFC比率を30%で維持した。
米国に比して日本の不動産はかなり割高であり、しかも日本での成長はロードサイド(郊外店)ではなくレールサイド(都市店舗)を中心の店舗展開であったたため、不動産価格の日米の差はさらに大きくなったことが、不動産リース方式での収益モデルが成立しなかった要因だ。
藤田時代の日本マクドナルド
1971年に貿易ビジネスを経営していた藤田氏が米国マクドナルドと契約を交わし、日本一号店を三越銀座店にオープンした。藤田氏がめざしたのは「米国の食文化を日本に移植する」ことであった。
しかし藤田氏は米国のビジネス方式をそのままではなく、日本的にアレンジして導入した。
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当初は郊外立地ではなく繁華街、鉄道駅ビルなどの徒歩客を対象とする立地にこだわった
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結果として先述したようにFCではなく直営店中心で店舗展開した
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社員に対して「温情主義」を貫いた。サービス産業でトップクラスの給与水準を実現したこと、暖簾分けの理念で社員をFCオーナーにしたこと。とりわけ従業員教育に熱心に取り組み、QSC+Vの水準の高度化に積極的に貢献する人事を育てた。マクドナルドでアルバイトした学生の就職が優先された時代があったほどだ。
2001年にマクドナルドは降って湧いたような事件に巻き込まれた。BSE事件だ。これを機に牛肉に対する需要が大きく落ち込み、この影響を受けてマクドナルドの売上高も減少の道を辿り始め、2003年にはじめての赤字決算に陥り藤田氏は経営から身を引くことになった。同時に日本マクドナルドは完全に米国マクドナルドの支配下に置かれることになった。
原田時代の日本マクドナルド
原田氏は着任早々矢継ぎ早に経営改革の手を打ち始めた。その方針は「原点回帰」であった。
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安売りイメージから脱却し、QSC+Vの実現に取り組み、ブランドイメージを高めた
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最適規模に達しない小規模店舗の出店を凍結した
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作り置きをゼロにして、いつも熱々の出来立てハンバーグを提供する新キッチンシステムの導入を急速展開した
経営の基本に立ち返りビジネス・プロセスに磨きをかけたことが奏功して2009年まで日本マクドナルドは増収増益を津図桁。
2006年の転機
2005年に米国マクドナルドに転機が訪れた。当時約5%の株を所有するいわゆるアクティビストのヘッジファンドからの収益向上提案がきっかけだった。ヘッジファンドはその時にすでにFC比率が75%に達していたにもかかわらず、更に直営店舗の65%をIPOによって売却し、売却益を180億ドル獲得せよと迫った。
直営店の売却益は獲得できるし、FC点にすることでさらなるロイヤリティ収入が期待できたわけだ。
すでにビジネスの成熟期を迎えていたマクドナルドはこの後この提案に沿った形で直営店比率を30%以下にすることをグローバルの目標としてその実行を迫ることになった。
日本も例外ではなかった。
株主価値至上主義への傾斜
この時を境に日本マクドナルドの経営は変質していく。顧客に最高の価値を届けることを目指す快泳から、株主価値の最大化を目指す経営への転換がなされた。
日本マクドナルドもグローバル標準であるFC比率70%を目指して、次々と直営店が売却されFCへと引き渡された。
これまでのFC経営者はマクドナルドで腕を磨いた社員がスピンアウトして経営者になっていた。FCトップが経営の隅々を掌握し、現場に立って指揮を執る現場主義の経営がなされていた。
この良き伝統は破却され、現場を経験しない経営者がFCの指揮を執ることになった。このことが経営の原点であり、マクドナルドの強みであるQSC+Vへの実現力を現場から喪失していく流れをつくりだし、マクドナルドの衰退の最大要因となった。
こうして株主価値至上主義の経営への転換⇒現場力の弱体化⇒顧客離れという悪循環が始まった。
ある意味で成熟期に差し掛かり、経営業績が思うように向上しない時期にさしかかった時に、なお財務上のパフォーマンスを改善することを求められた経営者が、手っ取り早く業績を改善に向かわせる方法として採用したのが直営店の売却政策だったわけだ。
成熟期においてもなお成長を続けるためにビジネスモデルの自己革新に向かうという本筋を外れて安易な邪道に迷い込んでしまったことが悪循環の始まりだったというわけだ。
かくしてマクドナルドの失敗の本質は、株主価値至上主義へと舵を切って、不動産リース業というビジネスモデルに執着したことがその衰退の原因ということになる。
マクドナルドの失敗の本質
21世紀型のファストフード・ビジネスも、自然、健康、環境保全、多様性を志向する消費者の期待に沿った自己変革を求められている。この流れに乗れないビジネスは衰退に向かわざるを得ない。変化対応ができないものは生き延びられないからだ。
従ってマクドナルドの失敗も変化対応のためのイノベーションを怠ったとみなすことがその本質だという点で筆者の論は正確に的を射てはいないということができる。
成熟期にあるビジネスにおいても変化対応のためのイノイベーションを継続的に実現する限りビジネス価値の継続的な拡大が可能だからだ。
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ny-o1 (火曜日, 10 2月 2015 14:04)
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