在宅医療・介護の普及には情報共有システムが不可欠だ
厚生労働省は在宅医療や在宅介護の拡充を重要施策の一つとしている。
高齢化が進む中で、医療費や介護費の効率化が避けて通れないが、在宅医療、在宅介護を普及することが、医療費や介護費の効率化の達成のために鍵となるからだ。
在宅医療・介護を充実したものにするうえで、患者をケアする地域内の病院、診療所の医師、訪問介護士、訪問看護師、ケアマネジャー、薬剤師等が患者について適時、的確な情報を書き込み、それを共有することが、患者の最適治療や介護に不可欠となる。
この医療や介護に携わる関係者間の情報共有のための情報システムの整備が、ようやく厚生労働省の旗振りで始まろうとしている。
厚労省が情報共有システムの整備の号令をかけた
「厚生労働省は4月から、病状や服薬歴など病院が管理している患者の情報を、地域の看護師や介護士らが共有する仕組みをつくる。全国の市町村にシステム整備を義務付ける。末期がんや寝たきりの患者が看護師や介護士らのケアを受けながら、自宅で安心して療養できるようにする狙い。
医師や介護関係者らが参加する協議会で市町村ごとに具体的なシステムや運用ルールをつくる。介護保険法の関係省令を改正し、2015年度から開始。18年度までに全市町村での整備を終える考え。厚労省はシステム整備を財政支援する。
共有する情報の範囲は今後詰めるが、診察記録や服薬・検査の記録、入院中の様子などが対象になる見込み。患者の自宅を訪問して治療やケアにあたる診療所の医師や介護士、看護師、介護支援専門員(ケアマネジャー)らが知っておいたほうがよい情報を伝える」。(日経新聞2015.3.26朝刊)
厚労省が旗を振る情報共有システムは大問題を抱えている
システム整備に関する厚労省の方針は重大な問題を孕んでいる。システム開発を地域自治体に委ねようとしていることが大きな無駄を発生する、つまりは巨額の税金の無駄遣いになるという問題だ。
医療介護のための情報共有システムは、地域が異なってもシステムの備える要件は同一なはずだ。ということは同じ機能を持つシステムを、地域自治体ごとに開発することはとんでもない無駄を生むことになる。喜ぶのはシステム開発を受託するIT企業だけだ。
地域自治体が連携し、資金を出し合って一つのシステムを開発し、システムの運用も専門機関を設立するなどして、委託すれば済んでしまう。
さらにクラウドを活用すれば、全国の地域ごとのシステムを一体化して運用することが可能だし、それによって運用コストの最小化が実現できる。
またクラウドで全国の患者のデータを統合データベースに格納すれば、コストセーブばかりでなく、患者の転居にも即座に対応可能になるわけだ。
厚労省がこうした方針を持つことに消極的ならば、自治体側が自主的に全国的に連携して、情報共有システムの開発と運用のためのコンソーシアムを立ち上げることで、この問題に向き合わなければならない。
地域自治体の基幹業務システムは、例えば住民票、印鑑登録、国民健保、地方税など機能がほぼ同一であるにもかかわらず、それぞれの自治体で開発され、運用されてきた。このやり方は膨大な無駄を生んでいるばかりか、大震災後の被災者あての見舞金の支給に当たって、システムの違いから自治体によって支給時期が大きく異なる状況が発生することにもつながった。つまり地域住民に対するサービス水準に大きな差異が生まれているということだ。
医療・介護情報共有システムの開発と運用に当たっては、こうした轍を二度と踏んではいけない。
データの整備が同時に必要となる
医療・介護情報共有システムにとって健保にかかわるレセプトデータと診察時のカルテデータの二つのデータが中核的なデータになるはずだ。
カルテデータの問題はカルテデータを作成する医師が使っている診察情報システムが、極端に言えば病院ごとに異なるために、フォーマットの標準化と、カルテデータを標準フォーマットに転換するインターフェイスが必要になる。
さらには診療システムをIT化していない病院や診療所も多いので、それらの医師がカルテデータを入力するシステムを開発することも必要になるが、この分野については地方自治体の手には負えない課題になるはずだ。
またレセプトデータについても医療・介護情報共有システムのためにデータを正規化したり、統合して、データを使いやすい状態にするためのデータベース転換業務が必要になる。
こうしたインターフェイスのための標準化や、データ整備は医療・介護情報共有システムの開発と並行して、しかもそれに先立って開発が進められなければならない。
厚労省はこうした周辺整備を強力に進めるにあたって、地方自治体に任せきりにしないで強力なリーダーシップをとることが求められている。
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