「出版大手のKADOKAWA(角川)が4月からインターネット通販大手のアマゾンジャパン(東京・目黒)と紙の書籍・雑誌の直接取引を始めた。出版物を書店に届ける取次を介さないことで物流を効率化。消費者に早く商品を送り届けられるようにする。仕入れ費用を抑えられるアマゾンはポイントなどの形で消費者に収益を還元することも可能になる。
角川が発行するすべての書籍や雑誌が直接取引の対象となる。大手出版社がアマゾンと直接取引に踏み切るのは初めて。
消費者はアマゾンのネット通販サイトを通じて欲しい書籍や雑誌を注文。アマゾン側に在庫がない場合は、角川が最短1日で商品をアマゾンに送るので、消費者の手元にも早く届くようになる」。(日経新聞2015.4.22朝刊)
ほとんどの出版社は日版やトーハンなどの「取次ぎ」と言われる卸に小売店への書籍の販売を委託している。
大手出版社では岩波書店が例外的に取次ぎを通さず書店と直取引しているという状況があった。
取次ぎの機能は金融機能と物流機能だ。ただし出版社は取次ぎに販売委託をしている形になっているので、在庫リスクは出版社が引き受けている。従って書店や取次ぎは返品自由ということになる。
物流機能は全国規模で展開しているから、出版社は書籍の全国書店への配荷について、取次ぎに任せていれば問題はなかった。日本で比較的小規模の出版社が成り立つ理由は取次ぎの機能が存在したからにほかならない。
角川とアマゾンの主席流通イノベーションによってこの日本独自の書籍流通の卸機能が中抜きされる流れが始まったわけだ。
アマゾンそのものが物流機能と決済機能をビジネスモデルとして保持しているので、出版社⇒取次ぎ⇒アマゾンという流通経路はそもそも価値を生まない迂回経路であり、今回のイノベーションはそれを単純化しただけにすぎず、必然的な成り行きと言うことができる。
同時に中抜きによって出版社は取次ぎに対する営業が不要になり、書籍の開発とマーケティングに機能を集中することができるようになる。
またこの中抜きによって当然取次ぎに支払われていたマージンが不要になり、これを角川とアマゾンが分けることになると思われるが、両社がそれぞれにその分け前を消費者にも還元することが求められる。
アマゾンはポイントで還元するとのことだが、角川はぜひ書籍価格の引き下げで還元していただきたいものだ。
ところでこうした中抜きを出版社が次々に実行すると、書店の役割が変わってくることが容易に予想される。e-コマースの普及とともに実現したショールーミングが書店でも普通に行われることになるはずだ。
書籍についてショールーミングの流れが本格化するとき書店はどのようにして生き延びられるだろうか。
書店が生き延びるためには顧客を従来のようにマスとしてではなく個客としてサービスを提供する場を構築することが必要になるだろう。
書店と消費者の関係は書店が大規模になればなるほど希薄化する。それをあえて濃密な関係に再構成することが求められている。消費者一人ひとりの書籍を巡る世界を把握し、顧客一人一人の購入履歴から個客としてのニーズを把握し、顧客それぞれに合わせたサービスを提供するマーケティング・イノベーションが求められているのだ。
もう一つリアル店舗のネット店舗に対し有利な点はただ一つ。即時購入ができるということだ。したがって個客マーケティングと即時購買動機を結合することで、書店のイノベーションが可能になる。
つまり個客の潜在的なニーズの把握に基づいて、個客の来店時に個客の購買動機を刺激し、即時購買の行動につなげるマーケティングを実行すればよいのだ。書籍好きの個客その訴求によって、推奨された書籍を手に取り、即購買の行動をとることになる。
こうした事態が連続的に生起すれば、個客は書店に赴くことで、ある意味で常習的な快感を得られるようになるに違いない。
ここにリアル店舗のバーチャル世界に対する逆襲のチャンスがある。
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