株主至上主義は企業を衰退に導く

日経新聞2015.4.28朝刊のコラムに、小平編集委員による、日経のこれまでの論調とは一線を画したまともな主張が見られる。題して「まだ見ぬもの言う株主との闘い」。

企業の業績が伸び悩んだり、先の見通しに影が忍び寄ると、経営者は好調時には黙していた「もの言う株主」が自社株買いや増配などを声高に主張することを予見して、言われもしていないのにその陰におびえて増配や自社株買いに走ることを憂うる論調だ。

 

「『自社株買いや増配にむやみに反対するのではない。しかし、短期の還元を増やそうとするあまり、研究開発などが後回しになるのは好ましくないと思う』

日経平均株価が2万円台を回復した先週、世界最大の資産運用会社、米ブラックロックのローレンス・フィンク会長は日本企業へのメッセージとして持論をくり返した。

フィンク氏が米主要企業の経営者への手紙で、アクティビスト(物言う株主)の要求に反応し安易な自社株買いなどに走るのを戒めたことは、よく知られる。積極的な還元にようやく動き始めた日本企業に、くれぐれも投資を犠牲にしないよう強調しておきたかったのだとみられる。

経営者が株主の圧力を意識しすぎるあまり、事業売却や還元といった資産・資金のやりくりに走る様子を、かつて英経済学者ジョン・ケイ氏は『経営者のトレーダー化』と評した。短期主義は株主だけでなく、同調する経営者の問題でもあるという指摘だ。経営者のトレーダー化が行き着く先はどこか。『英国には世界に誇る企業が金融以外にいくつもあったが、今は見る影もない』(ケイ氏)。株式市場の短期主義がもたらすイノベーションの衰退は、一国の経済にとっても打撃だ。

投資が第一、還元はその次。優先順位を間違えると取り返しのつかないことになる。米資産運用業界の重鎮と英経済界のご意見番は、日本企業に同じ警告を発している」。

 

現状の日本企業は株主本位の経営への道をまっしぐらに進んでいる。コーポレート・ガバナンスの拡充の議論も、経営者の意識を株主第一の経営に向ける意図が濃厚だ。

この流れでROEが株主本位の経営の最重要指標(KPI)として取りざたされている。そして「欧米企業のROE10%を超えている。日本企業のROEは欧米の1/2にも達していない」と煽られ、企業経営者は一斉に高い比率のROEを目指す経営目標を掲げ始めている。

問題なのはROEの水準を改善するために、自社株買いや増配などでせっかく蓄積してきた内部留保を湯水のごとく浪費してしまうことだ。自社株買いをしても、増配しても業績にはいかなる貢献もしない。

さらに問題なのは自社株買いや増配を求める株主は株価が高めにシフトしたとたんに売り逃げる短期保有の株主だということだ。株主本位に舵を切るならせめて長期保有の株主に向き合う形で経営のかじ取りをすべきなのだ。

となれば本来新規需要開発のためのイノベーションや、海外市場開拓のためのM&Aのためにこそ余裕資金は投下すべきなのだ。

こう考えると自社株買いや増配に走る経営者は企業業績を長期にわたって継続的に改善することに向けての効果的な投資対象が見当たらないことを問わず語りに表明していることになる。そうした企業のその先には衰退の道が控えているということになる。

企業は顧客、従業員、取引先、地域社会そして株主など様々なステークホルダーに支えられている。それらすべてのステークホルダーの満足が実現できてはじめて最高のパフォーマンスが実現できるのだ。

しかしこれらのステークホルダーの満足はそれぞればらばらに追求できるものではない。顧客満足を実現することを第一優先順位に位置づけてはじめて、その他のステークホルダーの満足がバランスよく実現するという構造が可能になるはずのものなのだ。

ましてや株主本位は最後に満たされるものとして位置づけられるべきものなのだ。