「マイナス成長でも最高益」は実力なのか?

2015.6.7付日経新聞で、「マイナス成長でも最高益」のコラムが一面を飾っている。その論旨はこうだ。

「日本企業にとって2015年3月期は歴史的な一年になった。実質国内総生産(GDP)の伸びがマイナスにもかかわらず、上場企業の経常利益が7年ぶりに最高を更新したからだ。その原動力は各社が地道に育ててきた海外事業にある。

海外事業の拡大の一方で見逃せないのが、企業が利益への意識を高めてきたことだ。売上高経常利益率は今期6.7%と連結決算が本格化した2000年代以降で最高になる。

ただ前期は円安が利益をかさ上げした面も大きい。自動車や電機、機械の主要22社を対象に円安が営業利益をどれだけ押し上げたかを集計すると1兆円弱に上り、増益分に匹敵する」。

煎じ詰めれば、企業が利益志向に意識を切り替え、まじめに利益追求に励んだことに加えて、海外事業の拡大と円安効果が企業の利益水準を押し上げたということになる。

しかし海外事業の拡大は14年度に一気に実現したわけではない。国内市場の飽和とグローバル化の進展が円高局面の継続に背中を押されて、海外での現地生産の展開を促した。

その基盤の上で、円安が円換算での売上高と利益を押し上げたことが企業業績の拡大を実現したということだ。

具体的には14年度において前年対比で約20%の円安だったので、輸出と海外事業の業績は量的な拡大なしでも円評価で約20%の膨張をしたことになる。つまり企業は業績改善の努力をなんら行わなくとも、海外取引で20%の増収増益のアドバンテージを得ることができたというわけだ。

とすれば円安が現状の水準を大きく更新しないとすれば、15年度の企業業績はこれ以上の改善は期待できないと見るべきだ。

むしろ円安は輸入品の価格を押し上げて、企業のコスト構造にダメッジを与え、さらに消費財の価格を押し上げて、消費支出の拡大に水を差し、企業業績は停滞局面に移行し、経済規模は縮退することになると見るべきだ。

このような状況で経済の拡大を目指すとすれば、個別企業はそれぞれの企業努力によって、新しい需要を創出したり、拡大することが求められる。まさにイノベーションによる需要創造が本格的に必要とされているということだ。

これに関連して、2015.6.8付日経新聞の「経済教室」における慶応義塾大学の池尾教授の論考が参考になる。

池尾氏の指摘は次のようだ。

「日本の現状にあった成長戦略を組み立てるには、人口問題に正面から焦点を当てることが必要だ。そうした観点から翁邦雄・京大教授は近著で、後期高齢者の健康維持(健康寿命延伸)のための対策を集中的に講じるという成長戦略を提案している。高齢者が健康であり続ければ、減少する労働力を介護にとられて、他の用途に投入できなくなるという問題の軽減につながる。

 それだけでなく、健康寿命の延伸に関しては、医療技術の革新や新薬、介護ロボットの開発といったイノベーションが不可欠であり、そうしたイノベーションの成功は膨大な需要の創出につながる可能性がある。大きな需要が持続的に見込めるのであれば、設備投資も誘発される」。

世界的に見て前人未到の高齢化社会に突入した日本にあっては、医療、介護、健康分野での先行的なイノベーションがグローバルにも大きな需要を創出し、拡大する大きなチャンスが拓けていると見るべきなのだ。