「東洋ゴム工業の免震ゴムの性能データ改ざん問題で、信木明会長と山本卓司社長に加え、リスク管理担当の久世哲也専務執行役員も引責辞任する方向になった。代表取締役3人全員が退任するのは異例の事態。改ざんの放置につながった経営判断の甘さを重く見た社外の取締役や監査役が厳しい対応を迫ったためだ。『外圧』が社内の自浄能力の欠如を浮き彫りにした」。(日経新聞2015.6.19朝刊)
社外役員によってガバナンスが正常に機能したことが評価できる。
しかし、13年の夏に社内で不祥事が認識されたにもかかわらず、出荷停止の対応が始まったのは今年の2月。この間にも不良品の納品が続いた。
「データ改ざんは2013年夏に免震ゴムを製造した子会社が把握し、14年5月には信木社長(当時)ら東洋ゴム経営陣にも報告が上がった。調査を経て9月の社内会議でいったん出荷停止の準備に入ることを決めたが、すぐにデータを補正すれば出荷を継続できると判断を変更した。
出荷停止を決めたのは今年2月で、問題物件は154棟に達した。『緊迫感に欠けた楽観的な認識に基づく対応がなされた』。社外調査チームは4月に作成した中間報告書でこう批判した。建物の安全性に直結する製品を供給している意識が決定的に欠けていた」。(同)
もう少し早く社外役員によるガバナンスが機能していれば、顧客のリスクを拡大せずにすみ、結果として損失も抑制できた。
リスクを認識した時点で素早く、リスクの拡大を防ぎ、リスクをなくすための対応を経営陣に迫ることが、社外役員に求められるということだ。
更にこの事例で大事なことは、リスクの拡大を早急に防ぐということもさることながら、リスクに対する鈍感さを質すことだ。この鈍感さは、企業文化が抱える大いなる欠陥といえる。
従って大切なことは起こってしまったリスクに素早く対応して、リスクの拡大を防ぐだけでなく、こうしたリスクに対する不感症を革める根本的な治癒策を経営陣に求めることだ。
とすれば、今回の代表取締役の辞任は問題解決の始まりにすぎず、不良品の出荷を見過ごすような企業風土の欠陥の根本原因を解明し、之を除去することを経営陣に迫り、その素早い実行を見届けることを、社外役員が責務として努めなければならないということだ。
そして社外役員にとって究極の使命は、こうした企業文化の改革をリードする経営トップを選任することだ。
はたしてこれまでこうしたリスク不感症の企業文化にどっぷり漬かってきた社内の人材が、自己否定の改革をリードすることができるだろうか。この際思い切って企業文化の破壊と創造に取り組む人材を社外に求めるべきか。
こうした決定的に重要な問いに答えて最適な解を模索することが社外役員に求められている。東洋ゴムの社外役員は当分眠れない夜が続くことになる。
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