日経新聞の「経済教室」に「IoTの可能性と課題」と題して東京大学教授の坂村健氏と法政大学教授の西岡靖之氏が寄稿している。
IoTとは、坂村氏の定義によれば「コンピューターが組み込まれたモノ同士がネットワーク連携して社会や生活を支援する、という考え方だ」。(日経新聞2015.07.09朝刊)
IoTを巡っては現在二つの潮流が注目を集めている。ドイツが中心になって進める『インダストリー4.0』と米国中心の『インダストリアル・インターネット・コンソーシアム』だ。
坂村氏はIoTの革新性はそのオープン性にあると看破している。
「インダストリー4.0が目指すのは、標準化したカンバンによりドイツ、さらには世界中の製造業すべてがつながれるという系列に閉じないカンバン・システムを目指している。
インダストリアル・インターネット・コンソーシアムも、米AT&T、シスコシステムズ、ゼネラル・エレクトリック(GE)、IBM、インテル、独ボッシュといった欧米の大企業が組んで実用化をめざす普及機関である。自社製品に閉じたシステムでなく、広くオープンに予防保全や運転効率化の枠組みを確立しようとしているところに意義がある」。(同)
坂村氏は自社系列や自社製品に閉じられた世界ではなく、あらゆるモノをオープンに繋いで標準化や効率化をめざすのがIoTの特徴とされている。
そして坂村氏は日本はこのオープン・システムの開発において決定的な弱みを持っていることを危惧されている。自社や系列内で有効性を発揮する閉じたシステムは得意とするが、インターネットのようなオープンなシステムの開発では遅れを取っているからだ。
「研究段階が終わり、社会への出口を見つける段階になると、技術以外の要素が問題になる。そのとき、オープンな情報システム構築に不得手なギャランティー志向であることが、日本のIoTにとって大きな足かせとなる。意識レベルからこの問題を解決しなければ、技術的に十分可能であっても、オープンなシステムは構築できない。」。(同)
面白いことに西村氏も同様の懸念を指摘している。
「現時点では課題も多い。その筆頭が標準化の問題である。『モノとモノ』、『コトとコト』がつながるためには、企業を超えた共通のルールや決め事が必要となり、それぞれに関する標準化が要求される。日本の多くの製造業は、これまで蓄積してきた膨大な技術やノウハウが社外流出することによる競争力喪失を懸念して、標準化やつながる仕組みにはおおむね閉鎖的であった。セキュリティーに関する課題も、多くが解決されずに残されている」。(日経新聞2015.07.10朝刊)
こうした中で6月に国内で産学が連携する形で、企業を超えてものづくりが相互につながるための仕組みを構築する動きが現れた。6月に発足した『インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI)』がそれだ。
「『ゆるやかな標準』というコンセプトのもとで、競争領域と協調領域の境界を、企業の垣根を越えて再定義する。協調領域においては大胆にオープン化し、相互に連携するためのリファレンス(参照)モデルを構築する。トヨタ自動車、日産自動車、三菱重工業、川崎重工業、IHI、パナソニック、日立製作所、三菱電機、富士通、NECなどが、日本発のつながる工場の仕組みをつくり、広く海外にも参加を呼び掛けていく」(同)という。
この動きに期待したいところだが、製造業だけでIoTを考えようとしているところで、すでに部品製造から、組み立て、販売まで一気通貫のシステムを構想しているドイツの「インダストリー3.0」に後れを取っている。
日本でもサービス業はすでにGDPの70%を担い、従業員の50%を雇用している。この分野でのIoTの展開こそが決定的に重要であるはずだからだ。
筆者の経験でも、消費財分野でメーカーから卸店までのトレースは可能だが、小売業まで、更にその先の消費者一人ひとりまでの商品のトレースは現状では絶望的だ。
我が国のIoTを世界に先駆けた真に革新的なものにするには、例えば消費財メーカーから消費者までの商品のトレースをオープン・システムで可能にすることをIoTのビジョンに掲げるような構想力が必要とされているわけだ。
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