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27日 1月 2016

日本農業の再生のために何をなすべきか

 

日本農業の抱える三重苦

 

日本農業は三つの大きな困難を抱えています。

 

第一の困難:コメ中心の農業システム

 

困難の一つ目は日本農業が稲作を中心に組み立てられていることです。

 

弥生時代に日本で稲作が広範囲に展開して以来、コメ作りは日本の農業の中心に位置してきました。ヤマト朝廷の統治システムとしての律令制はコメ作りを経済・産業基盤として成り立っていました。以来今日までコメは日本農業の中核として、更には「豊葦原は瑞穂の国」たる日本の経済社会の基盤としての役割を担ってきました。

 

このような長い伝統を持つ稲作中心の日本農業を決定的なものにする方針決定が1960年に行われました。「農業基本法」の施行です。これによって政府の農業政策は稲作至上主義の色彩に染められることになりました。

 

この時以来農業の振興を意図した予算措置はことごとく稲作生産システムの改善と稲作農家の保護に向けられ、コメの耕作面積そしてコメ生産量は70年には史上最大の規模を記録するまでに至ったのです。

 

しかし1970年代になって日本人の食生活は大きな変貌を遂げることになりました。食品の消費カロリーは戦後の飢餓時代以来増大し続けましたが、やがて飽食の時代を迎え1972年の一人一日当たり2287kcalをピークに摂取カロリーは減少局面に入り、現在に至るまで一貫して減少を続け、今では1800kcalを切るまでになりました。

 

同時に食文化の欧米化が進展し、コメ中心の食生活は分解再構成の時を迎え、小麦や牛乳や食肉を原料とする食品の増加に伴う食生活の多様化の時代になりました。

 

以上の二つの要因によってコメの消費量は著しく減少し、結果としてコメの生産過剰が表面化し、この対策として減反政策が余儀なくされ、余剰となった水田は休耕田や耕作放棄地と化し、農地という貴重な生産手段が大量に未利用のまま放棄されるに至りました。

 

第二の困難:畑作農業の貧困

 

日本農業の抱える二つ目の困難は畑作が著しく貧困かつ脆弱であることです。畑作の中心的な作物は小麦、大豆、飼料用トウモロコシ、馬鈴薯ですが、その自給率は小麦13%、大豆28%であり、なんと飼料用トウモロコシにいたってはほとんどゼロという惨状を呈しているのです。

 

畑作ものの生産量が著しく少ない要因は先に見たようにコメ中心の農業政策が続けられてきたことにあります。しかしいかにコメ中心とは言え畑作は70年代まではそこそこの耕作が行われていました。因みに1965年の自給率は小麦が28%、大豆は41%を記録しています。先に触れたように1970年の「農業基本法」の制定を契機に稲作が農政の中心に置かれることが決定的になることで、畑作農業は一気に壊滅的な状況を呈していったのです。

 

稲作中心の農政への転換は、畑作物は海外からの、特にアメリカからの輸入に依存することを決定づけるということを意味していたのです。

 

日本の安全保障をアメリカに依存することの見返りに畑作物の供給をアメリカにっ全面的に依存することが取り決められたと理解することが妥当のようです。

 

第三の困難:畜産業の脆弱さ

 

日本農業の抱える三番目の困難は畜産業がきわめて脆弱であることです。畜産物のうち肉類の自給率は55%ですが、そのうち国産飼料で飼育された肉類の自給率はなんと9%でしかありません。豚肉に至っては国産飼料で飼育された自給率はわずか6%にとどまります。

 

農業の生産システムにおいて畑作と畜産は相互補完関係にあります。家畜の屎尿は堆肥となって土壌の改善に活用され、畑作物の生育に欠かせない資源になります。また畑作物は飼料用トウモロコシをはじめ、大豆、小麦など家畜の飼料として活用されます。このような耕畜連携こそ大地を媒介項とした自然の循環システムであり、これが持続可能な農業生産システムを作り出すのです。

 

さらに畑作物の規格外品や余剰品さらには畑作物を原料とした食品加工プロセスで排出される残滓も飼料として有効に活用することが可能です。これらの未利用資源はタダ同然で家畜の飼料として供され、畜産物の価格をリーズナブルな水準に維持する原動力となっているのです。

 

こうした耕畜連携こそ1000年以上の歴史を誇る欧米の農業生産システムの基軸となっているのです。日本の農業システムに畜産という機能を欠くに至った要因も稲作中心の農業に求められます。すなわち畑作が農業の中核に位置づけられてこなかったという歴史的な要因が畜産業の脆弱性を決定づけているのです。

 

明治維新にいたるまで日本では「食肉忌避」の食文化が支配的でしたが、このことも畜産が業として成立することを妨げてきたと見ることができます。しかしこの風習ももとはと言えば天武天皇の「食肉禁止令」(675年)が発端であり、この勅令の目的が稲作の生産量の増産のために農繁期には食肉、飲酒を禁止して、農作業に精励することにありました。この食肉禁止令は稲の生育中に肉食すると稲の生育が悪くなるという信仰が背景にあり、農繁期に限られた禁止令でありましたが、いつの間にかそれが肉食の忌避へと拡張されていったと理解することができます。いずれにしろコメ中心の農業が畜産の発達を妨げた主要因であったということができるわけです。

 

TPPは三重苦を拡大する

 

TPPによってコメを除く農畜産物の関税はやがて撤廃ないし大幅に削減されることになります。特に食肉の関税が廃止されることによって日本の畜産業は壊滅状態になることが予想されます。関税の廃止によって食肉は掛け値なしの価格競争に向き合うことになり、基本的にタダ同然の飼料価格で飼育される米、豪の食肉との競争に敗退せざるをえないということになるのです。

 

畜産業が潰されれば畑作農業も効果的な堆肥の供給源を失い小麦も大豆もトウモロコシ同様に深刻な打撃を受けることになります。

 

かくしてTPPは日本の農業の再生の道を完全に閉すばかりか、現状の細々とした状態の畑作農業の息の根を止めることになります。    

 

何をなすべきか

 

日本農業の抱える三重苦からの離脱はいかにして可能でしょうか。

 

田畑転換

 

まず初めに取り組むべきは畑作の再構築でありましょう。畑作の再構築の第一歩は放置されている水田を畑地に転換することです。

 

現在水田のうち休耕田は100万ha、耕作放棄地は70万haあるとされています。(農水省は減反面積を平成16年度以降公表をやめました。従って正確な数字は農水省の開示資料からも窺えません)

 

水田から転換された畑地は4つに区分し、一区画ごとに小麦⇒馬鈴薯⇒大豆⇒カバークロップというように輪作する4圃制の輪作体系を導入します。一区画ごとに毎年作物を入れ替えることで土壌の疲労を回避し、また4年に一回休耕地とすることで土壌の養生が行われ生産性の継続的な増大が可能になります。

 

耕畜連携

 

次いで構築連携のシステムつくりを行います。地域内に畜産農家が、畜産農家の飼料を輸入品から地域産への置換を促します。この時の決め手は飼料価格をタダ同然の価格で供給することです。当面は輸入飼料に混ぜる形での置換を進めることになりましょう。

 

もう一つ重要なことは家畜の屎尿を堆肥にして畑へ還すことを実行することです。堆肥は余剰が出ればバイオ・エネルギー源としての利用も可能になります。

 

農工連携

 

畑作物の生産が始まれば必要になるのは畑作物を原料とする加工食品の生産システムを再構築することです。小麦にはパン工場、麺工場、パスタ工場が、大豆なら味噌工場、醤油工場、納豆工場などとの連携が構築されなければなりません。

 

畑地に転換された地域に食品加工場があればその原料を輸入品から地域産への置換を進めることです。地域に加工場がなければ食品加工場を誘致して地域内で生産される畑作物を地域内の加工場で加工し、地域住民へ提供する地域内の農産品の連鎖を形成することが必要です。

 

食品加工場と畑作農家の間には農産品の売買契約が締結されることになります。品質規格を前提に規格品の売買量と価格を取り決め、播種前に締結します。契約は天候による作柄の豊凶に関わらず約束した量と価格をたがえずに履行することが求められます。

 

従って農家は作柄が良くなくとも契約を履行することが可能なように契約量の20~30%増しの播種を行います。この余剰を前提とした播種を無理なく行うためにはあらかじめそれを前提とした売買価格設定が行われます。

 

また農作物には品質規格が決められていて品質の格付けによって価格が決められます。高品質の作物を生産すれば農家の収入が増加するというインセンティブは高品質に向けて改善改良を農家に促すことになります。食品加工メーカーは高品質の原料を加工することで高品質の製品がムダなく生産可能になるということで歩留まりが上がり、メーカー自体も収益を拡大することが可能になります。

 

こうして契約栽培の仕組みは「利己主義」に基づく市場経済のルールを超えた「利他主義」の原理に基づく取引とかんがえることができるのです。

 

「スマート・テロワール」の形成

 

これまで見てきた日本農業の再生の道は畑作農家、畜産農家、食品加工業者が三位一体の連携をすることではじめて可能になります。

 

加工業者は消費者から製品の品質や価格に対する様々な要求を受け止め、それを実現すべく、加工プロセスの不断の改善を実施し、そのために原料農産物の品質規格を設定します。農家は農産物の品質向上を目指して栽培プロセスの改善を進め、更には種子の改善、開発に力を注ぐようになります。

 

こうした農・畜・工の連携を前提としたチームワークが特定の地域内で機能することが畑作の再生ひいては農業・農村の再生が可能になるのです。このチームワークに地域の消費者も参加し、地域の産物を消費する、地産地消の行動に転換することではじめて大きな効果を産み出すことになります。

 

このような地域のありかたを「スマート・テロワール」(美しく強靭な自給圏)と名付けその実現に向けて努力を結集することが今求められています。

 

「スマート・テロワール」の実現は農業・農村の再生を結果するばかりではありません。これまで輸入に依存してきた畑作物、畜産品が自給品に置換されます。そして自給原料を加工することで地域の加工場は操業規模を拡大することになります。

 

農畜産物と食品加工場の規模拡大は地域の創造する付加価値額を拡大し、同時に地域の雇用を生み出します。農村から都市への人口移動が逆流を始めることになります。雇用の場が拡大することで若手のUターンも一気に拡大します。若年層の都市への流出が止まり、逆流が始まれば出生率も改善をし始めます。農村の出生率は都市よりも高く2.0人を上回るところも多いことから、少子化の流れを押しとどめることが期待できるのです。

 

さらに農村の景観が変わり、美しい村が返ってきます。畑作の回復は水田中心の景観から多様な畑作物が生育し、豚や牛が放牧される色とりどりの風景へと変化しはじめます。コメ一穀から五穀豊穣の風景への大転換です。

 

こうした美しい村は都会の人々を引きつけるようになります。地域の畜産物を美味しく調理して提供するレストランやホテルが生まれることになります。まさに「スマート・テロワール」発の「美食革命」が沸き起こることになります。

 

桃源郷を再び

 

英国人女性イザベラ・バードは明治11年外国人がまだ足を踏み入れたことのない東北地方を馬で縦断し、その時訪れた米沢地方について次のように記録しています。

 

「米沢平野は南に繁栄する米沢の町、北は人で賑わう赤湯温泉をひかえて、まったくのエデンの園だ。“鋤のかわりに鉛筆でかきならされた”ようで、米、綿、トウモロコシ、煙草、麻、藍、豆類、茄子、くるみ、瓜、胡瓜、柿、杏、柘榴が豊富に栽培されている。繁栄し、自信に満ち、田畑のすべてがそれを耕作する人々に属する稔り多きほほえみの地、アジアのアルカディアなのだ」。(イザベラ・バード『日本奥地紀行』)

 

TPPによって日本の農村、農業が潰されないうちに「スマート・テロワール」を日本の各地に展開し桃源郷と称されるような農村を復興しなければなりません。

 

「スマート・テロワール」が全国に100ヶ所ほども構築できれば、食料自給率の大幅改善と、GDPの2~3%ほどの押上げが可能になるでしょう。そして何よりもイザベラ・バードの見た逝きし日の農村の面影が現実のものとして蘇ることが期待できるのです。

 

 

 

 

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コメント: 1
  • #1

    日野 進一郎 (日曜日, 08 5月 2016 15:46)

    特に、日本の中山間地域は、国の政策に惑わされることなく、自立した独自の桃源郷を目指すことが必要だと感じています。

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