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17日 5月 2016

読書ノート:T.ソーチック著『ビッグデータ・ベースボール』(角川書店刊)

 

2012年まで20年間負け越しを続けたメジャーリーグ中部地区のピッツバーグ・パイレーツが2013年になんといきなり地区リーグ2位になる大変貌・大躍進を遂げた。

 

この劇的な業績改善を成し遂げた裏にはビッグデータの活用による戦術の大転換があった。

 

パイレーツのジェネラル・マネジャーのハンティントンと監督のハードルは、2013年の成績が従来のような無様な形で終われば、解雇されるに違いないという状況に追い込まれ進退窮まっていた。

 

この困難な状況を切り開くために二人はデータ活用による戦術の大転換に賭けるしかなかった。

 

彼ら二人のリーダーシップの下で実現した戦術の大転換は従来の野球界の常識からすれば「そんなバカな!」と言われる打ち手の連続技だった。

 

 

 

「ヒットは投手に責任があるのではなく守備の責任だ」

 

データ解析によって守備位置が適切でないことによるヒットが多いことが確認された。打者の打球の飛ぶ方向には規則性があり、この規則性に従って飛んでくる打球を待ち構える守備位置に野手が配置されればヒットの数は大幅に減少するということだ。

 

従来の守備位置は均等間隔が常識で誰もそれを疑うことはなかった。

 

「投手は三振よりゴロを打たせる方を高く評価しよう」

 

打者によって守備位置を最適化することが行われれば、投手は三振を奪うより内野ゴロを打たせてアウトにすることに徹したほうが良いということになる。となるとゴロを打たせる球種た球速を特定しその球種・球速に特化して投げ込んでいけばよいことになる。

 

「ピッチフレーミングに価値を見いだす」

 

ボールかストライクかの判定がむずかしいきわどいコースに投げ込まれたときに審判の判定に影響を与える捕手の技術がピッチフレーミングだ。

 

「捕手によるボールの捕り方は視覚のトリックで、その巧みなごまかしの技術によって主審にきわどいコースの投球をストライクと判定させることができる」。

 

この技術は捕手によってレベルに大きなばらつきがある。ピッチフレーミングを通じて1シーズンあたり約15点~30点の失点を防いでいた優秀な捕手がいた一方で、1シーズンあたり15点も失っている計算になる捕手もいたという。

 

パイレーツのデータ分析官たちは膨大なデータを活用してこのピッチフレーミングにずば抜けた才能を発揮している捕手を探し出し獲得した。こうしてスカウトされたのがラッセル・マーチンだった。マーチンはパイレーツに移籍して、これまで正当な評価がされていなかったピッチフレーミング技術を高く評価されたことも手伝って、チームの要として信じられないほど大きな貢献をした。

 

「投手を負傷から守れ」

 

シーズン中にかかる投手への肉体的負担はきわめて大きい。より速い球が期待され、より多様な球種を要求されるようになってその負担は極限に達し、負傷して手術を受ける投手が急激に増えている。

 

予算上の制約から投手の人数に制限を設けざるを得ないパイレーツにとって投手の負傷は致命的な戦力ダウンをもたらす。いかに負傷から投手を守るかがパイレーツにとって死活的な課題になった。

 

この課題に対するソリューションもデータ解析によって得ることが可能になった。投手にデータ測定装置を装着してもらって、投球のフォーム、球種、球速によって身体のどの位置にどれほどの負担がかかるかのデータを収集し、このデータを解析していかに負担を減らすかの処方箋を導き出した。

 

 

 

以上のようにこれまでは非常識と考えられてきた戦術を次々と打ち出すことを可能にしたのは2007年以降急速に進んだデータ収集の装置の球場への設置とそこから得られる膨大なデータの公開であった。

 

PITCHf/xは2007年にデータ収集装置として設置が始まり数年後には全球場に展開を終わっている。PITCHf/xは投手が投げた投球の速度、球種を始めその軌跡を三次元で計測してデータ化した。

 

2013年にはさらに進化した装置「スタットキャット」が導入された。これはグランド上のすべての動き、すべてのステップ、すべての送球を全面的に数値化する異次元の装置だ。すでに2015年には全球場に設置された。

 

こうしたデータ収集面のイノベーションによって野球に関わるビッグデータが公開され活用される時代が本格化しつつある。まさにパイレーツはそのパイオニアとしてこのイノベーションをリードしたことになる。

 

 

 

このイノベーションを成功に導いた要因を本書から取り出すと次の二つになる。

 

「仮説検証がすべての鍵だ」

 

膨大なデータをやみくもにコンピューターに投げ込んでぶん回してみても価値ある情報は得られない。やはりここでも「ギャベッジイン・ギャベッジアウト」の原則が生きている。現実にしっかり向き合う中で得られた仮説をまずは組み立てることが必要なのだ。この仮説に基づいてそれを検証するべきデータを選択しこれらのデータを分析してはじめて有意な結果が得られるということだ。

 

「現場と分析官の双方向コミュニケーションが仮説を生み出す」

 

そして何よりもこの仮説を生み出すプロセスが大事だ。仮説は現場に埋め込まれている。埋め込まれている仮説を掘り出すのにはデータ分析官が現場に足しげく通い詰めて、現場との双方向のコミュニケーションを成立させていることが必優なのだ。

 

現場は当初は分析官に「胡散臭い奴だ」という目を向ける。現場からの信頼を獲得するのは分析官が現場に出向いて現場の困難な課題を引き受け、データ解析を活用してそれを解決する糸口を見つけることを重ねるしかない。

 

現場から頼りになる存在だという認識を重ねることで分析官と現場との良い関係が生み出されていく。こうした関係が構築されてはじめて分析官は現場に埋め込まれている仮説を掘り出す機会を手にすることが可能になる。

 

「現場と分析官の双方向コミュニケーションが戦術の大転換を実現する」

 

現場と分析官との良好なコミュニケ―ションが進化するにつれて、これまでは非常識だった戦術を共有し、実践的に展開する機運が生まれてくる。

 

この戦術の大転換を共有するためのミーティングをリードするのはもちろんGMや監督やコーチたちだが、この時彼らの提案する戦術の絶大な効果を分析官はデータ解析によって見える化し、説明しなければならない。

 

この分析官の説明を選手たちが素直に前向きに受け止めてくれるかが戦術転換の決定的な鍵になるが、この鍵が有効に作動するかも現場と分析官とのコミュニケーションの深さにかかっているということなのだ。

 

 

 

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