ついに日経新聞も本音を語り始めた。円安ではなく円高が本当は望むべきことだということを。
「この円レート下落により、円で計った輸入物価は上昇し、物価はマイナス状態から脱せた。また多くの輸出企業は外貨建ての価格を引き下げて輸出量を増やすのではなく、外貨建ての輸出価格を据え置いて、円で計った手取りを増やすという道を選んだ。これによって製造業を中心に企業収益は大幅に増加した。
しかし、この経験で分かったのは『円安は企業の持続的な成長基盤の強化にはつながらない』ということである。そもそも円安による物価引き上げや企業収益増大の効果を続けるには、円安が進み続けなければならない。当然、これは不可能である。円安の効果は本質的に短期的なものにすぎない。
企業もこれを自覚しているからこそ、収益が増えても設備投資や正社員の雇用を増やすのをためらい、ベースアップに慎重となる。
企業の持続的な成長基盤の強化には、働き方の改革を通じて労働生産性を高め、技術革新を図り、規制改革によって医療・介護などの福祉分野で民間活力が発揮できる範囲を拡大していくことが必要だ。
こうした成長戦略が効果を発揮すれば、生産性の上昇を反映して為替は円高方向に動く。円高への動きは輸入価格の下落を通じて交易条件を好転させ、国民の実質所得を高めるから、国民の生活や福祉水準も上昇する。これが円高のトリクルダウン効果だ。
長期的には、日本の企業の実力に応じて円高への動きが生まれるような経済を目指すのが正しい道である」。(日経新聞2016.07.21朝刊)
筆者は先日のブログで円高は次のプラス効果を日本経済にもたらすと書いた。
「1.輸入品の価格が下落する。原油価格の低下と相まって消費者物価をマイナスに導く。つまりは実質賃金が上昇し、円安時代に低迷した消費支出が増加する。
2.海外投資が増加する。長期的な内需の縮減を見越して円安のさなかにも海外企業のM&Aや海外直接投資が進展したが、この流れが一層際立ってくる。
海外投資の増加がもたらすリターンの還流は円高による企業収益の減少を補てんする。
3.円安によって企業の収益は輸出企業を中心にこの3年間で約25%増加したが、輸出価格の上昇による売り上げの増加や対外投資のリターンの増加によるいわば架空の利益に過ぎない。
つまり輸出企業は新規需要を開拓したり、コストダウンに取り組んだり、販売促進投資を積極的に行って設備の稼働率を引き上げたり、と言うような努力をすることなしにいわば濡れ手で粟の利益を享受しただけだ。
これに対して円高の環境は企業をこのような緩んだ対応は許されない。身を削るコストダウンの努力を重ね、新規重要開発のためのイノベーション実現のために積極的に投資したり、需要喚起のための販促投資を的確に行ったり、海外企業との資本・業務提携を推進して公債的な競争力を磨いたりすることが求められる。
つまり円高によって日本企業はより競争力を拡充する打ち手を実行しなければならない。そしてこのことが日本企業の実態を伴う競争力の拡充と成長を加速するということになる」。
まさに筆者の見解はそのまま日経新聞の認識と重なったということだ。安倍政権誕生以来日経新聞はアベノミクスの大本営発表を金科玉条にして喧伝してきたが、ついにその過ちに気付いて方針転換を始めたように思われる。
このコラムが日経の一部の非主流派のものではなく日経新聞の共通認識であることを期待したい。
もしかしてこの日経新聞のコラムは政府が円安から円高容認へと方針転換をすでにしていてその様子見のために放ったアドバルーンかもしれない。
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