企業はすべてのステークホルダーに配慮しなければならない時代が来ている

 

ハーバード大学教授のマイケル・ポーター氏が日経ビジネスの記者のインタビューに答え、トランプ大統領に対しての高評価と期待を語っている。

 

「マイケル・ポーター教授が語るサステナブル経営」(日経ビジネスオンライン)

 

 

 

ポーター教授はトランプ大統領の登場を二つの意味で歓迎している。

 

一つはトランプ大統領が経済の成長を目標に置いているという点だ。大統領選で敗れたクリントン氏は成長よりも再配分に重点を置いていた。

 

二つ目にはトランプ大統領が社会的な課題の解決を提案しているということだ。これまでの20年間政治は雇用の拡大が進まないというような、平均的な市民が経済成長の恩恵を受けていないという社会問題を何一つ解決することはできなかった。

 

 

 

CSVの重要性

 

 

 

記者はポーター教授に次の問いかけを行っている。

 

 

 

ポーター教授は、企業がCSVCreating Shared Value=共通価値の創造)に取り組むことの重要性を提唱しています。昨年発表した米国経済に関する論文では、米国の問題は繁栄の恩恵を社会と共有できていないことだと指摘しています。ブレグジットやトランプ大統領誕生の背景を考えると、企業はこれまで以上に社会との『共通価値の創造』を重視する必要性に迫られるのではないでしょうか」。

 

 

 

ポーター教授は次のように答えている。

 

 

 

まさにその通りです。既に多くの企業は、利益の一部を寄付したり、単にCSR(企業の社会的責任)活動に取り組んだりという状況から、CSVへと移行してきました。つまり、事業そのものを通じて、社会によりよい影響を及ぼそうという方向に動いています。ブレグジットやトランプ大統領の誕生によって、企業は社会課題の解決に、より積極的に取り組む必要性を認識するでしょう。その意味で、現在の状況は共通価値の創造を企業の経営戦略に組み込む流れを、これまで以上に加速するはずです。

 

CSVというのは、博愛の精神を指す考え方ではありません。企業が競争上、ライバルとは異なる方法で優位に立つための戦略です。まさに、そのムーブメントが今、本当に加速し始めています。

 

社会に与える影響について配慮せよという、企業に対する市民の要求は、急速に強まっています。そのため、すべてのステークホルダーに対して配慮しなければならないと考える企業は、ますます増えています。

 

エネルギー効率を改善し、健康に寄与する商品を作り、従業員が会社の中で成長できる機会を提供することなどは、そもそも、企業が持続的に成長し、より成功を収めるために不可欠なことだと理解されてきました。

 

共通価値の創造というコンセプトは、資本主義が持つ究極の力を引き出すものです。企業が得た利益を社会に再分配するという発想ではなく、社会課題を解決し、社会のニーズに応えること自体が、企業を競争上、より優位にする。そうしたコンセプトを企業戦略に組み込むことが、資本主義の真の力を引き出すことにつながるのです。

 

そのことを、世界をリードするグローバルカンパニーの多くが理解している。スイスのネスレなどは、その典型でしょう。米国のウォルマート・ストアーズでさえ、最近は大きく変わりました」。

 

 

 

企業が全てのステークホルダーに対して配慮しなければ企業活動を継続的に実現できない状況がすでに出現しているということなのだ。

 

これこそまさに資本主義を社会的および公共的観点から改造して、資本主義が引き起こし、その究極のすがたであるグローバリゼーションの果てに生み出した極端な貧富の差や中産階級の没落や南北問題、さらには地球環境の持続性の危機などの諸矛盾を乗り越えようとする修正資本主義の立場だ。

 

 

 

メキシコ工場建設はCVSに適うか

 

 

 

このような観点で現在トランプ大統領がフォードやトヨタを名差しで非難した米国企業のメキシコでの工場建設の問題を考えて見よう。

 

企業は製造工場を米国につくるか、メキシコにつくるかの意思決定を迫られたときに、その判断基準としてどちらの立地が自社にとって利益を最大化するかという視点を用いるはずだ。

 

この利益至上主義が結果として米国の生産拠点の減少と雇用の減少を結果したわけだ。しかしその裏で米国民は米国産の製品と同等の品質のメキシコ産の製品を従来の米国産の製品より安価に購入することが可能になる。

 

そればかりか翻ってメキシコに目を移せば工場誘致によって雇用が生まれ、同時に工場を支えるパートナー企業の増産効果でここでも雇用が相乗効果的に生まれ、結果として賃金の上昇も期待できることになる。米国で仕事を奪われる市民以外のステークホルダーが満足することになるように思われる。

 

 

 

メキシコ工場建設はメキシコの社会問題を解決しない

 

 

 

しかし良く考えると重大な問題が取り残される。メキシコから米国へ輸出される製品価格は労働者の所得水準の米国労働者との格差を是正することはないし、また工場が生み出す環境破壊の解決をもたらすこともない。ましてや地域のインフラ整備などに寄与する水準でもない。

 

極端に言えばメキシコの市民や地域の抱える社会問題を是正することには貢献することはないということだ。つまりメキシコ進出は米国の労働者の雇用を奪うばかりかメキシコ社会やメキシコ市民というステークホルダーにとっても決してプラスに働くことにはならないというわけだ。

 

 

 

メキシコ社会というステークホルダーに配慮するということ

 

 

 

メキシコの労働者に米国の労働者と同等の賃金、福利厚生を保証し、地域社会に対して米国と同等の法人税を支払い、米国土同様の基準での環境規制に従うことを前提にメキシコ工場の建設を行うことではじめてメキシコのステークホルダーに配慮することになるわけだ。

 

つまりグローバル化時代にすべてのステークホルダーに配慮するということは、自国のステークホルダーにのみ限定するのではなく関係するグローバルなステークホルダーすべてに配慮するということに他ならない。

 

この原則は「フェアトレード」の主張を取り入れて企業活動を実行することにつながる。グローバル化の果てに資本主義が行き詰まりの罠に陥らないためにはそこまでの奥行きを持ってCVSを語らなければならない時代に来ているという認識が問われているのだ。

 

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コメント: 1
  • #1

    中田康雄 (日曜日, 22 1月 2017 10:04)

    追記
    少なくとも進出先での賃金水準は自国の最低賃金を下限として設定されるべきということになる