デジタル庁の前身組織IT室によるVRSの開発
デジタル庁が9月に発足する。500人の規模の組織になるようだ。
その母体となる内閣官房IT総合戦略室(IT室)が50人のメンバーを投入して先行開発したのが新型コロナウイルスのワクチン接種記録システム(VRS)だ。
VRSは次のような機能を持つ。
l ワクチン接種予約の個人情報の記録
l ワクチン接種実施の個人情報の記録
l ワクチン接種の個人情報の提供
l ワクチン予約および接種の統計情報の提供
l ワクチンパスポートの提供を可能にする
VRSのシステム要件は次の通りだ。
l VRSの個人情報はマイナンバーと紐つけされる
l VRSの個人情報はIT室が管理するクラウドサーバーに蓄積される
l 個人が自治体を超えて移動しても情報の提供が可能
l ワクチン接種に関わる情報は、自治体、クリニック、大規模接種会場等ワクチン接種に関わるすべての機関で入力可能
開発期間2ヶ月は短期間と言えるか
VRSはほぼ2カ月という異例の短期間で開発したと言われる。
これまでの政府のシステム開発の先例からすれば異常な早さと言えようが、世界標準の効率からすれば普通とも言える水準でしかない。
本来ならばワクチンのSCMの実態を記録して管理する機能が付加されるべきなのだが、その機能を含めてのことならば、異常に早いスピードだと評価することもできよう。
しかも問題なのはワクチンSCMの機能についての方針が未だに全く示されていないことだ。
最近になってワクチンの自治体間の偏在や、そもそものワクチン供給の実態が極めて不透明なことが国民の不信、不安を招いていることからすれば、ワクチンSCMのIT化はそれこそ異例の迅速さで開発されてしかるべきだろう。
そもそもワクチン接種の課題は1年以上も前から呈示されていたことからすれば、ワクチン接種が開始される間際になって初めて開発が俎上に乗ること自体、政権の課題設定の優先順位付の不具合というIT開発以前の問題が露呈されたと言わざるを得ない。
この一事からも中央政府の機能不全が極まっていることが一目瞭然なのだ。
デジタル庁が機能するためには何が必要か
デジタル庁は担当大臣のもとに事務次官相当の「デジタル監」を民間から起用し、さらに総勢500人のうち約100人を民間からの公募で集めている。
DXの実現にとってもっとも大事なことはデジタル人材の内製化だ。つまり政府も企業もデジタル人材を組織内で抱え、DX実行力を組織自身の課題解決エンジンとして機能させることが大前提となる。
政府のデジタル人材は極めて貧弱であることから、デジタル庁設置にあたっては中途採用で民間からの多様な人材を集め、組織のほとんどを民間人で占めるくらいにしなければならない。
当然のことながら事務次官もあるいは大臣自体も民間からスカウトすべきだ。
これまでの政権、政府の組織原理にどっぷり浸かった政治家や官僚にはイノベーションは起こせないと腹をくくるべきなのだ。
上司に忖度する組織風土からは改革は実行できない。人材は手垢の付いていない民間から高給で獲得するべきだ。
デジタル省でなくていいのか
そもそもデジタル化によって国家、国民の課題を解決することがデジタル庁の目的であるならば、デジタル省にしなければ実効性はほとんど期待できない。
デジタル省にした上でデジタル省は政府全省庁のデジタル予算を全て巻き取ることが可能になる。また政府全省庁のデジタル人材は厳選した上で、デジタル省に異動させる。残りのデジタル人材は各省庁でスタッフのデジタル・リテラシー拡張に貢献し、同時にデジタル省の開発する新システムの定着に貢献すれば良い。
その上で全省庁の抱えるデジタル化による課題の整理と優先順位付ができて初めて政府のDX化の道が拓ける筈だ。
こうした条件整備を整えた上でならば、政府のDX化は次のような理路によって中央政府の革命的な機能拡充に道を拓くことになるはずだ。
l 官庁の縦割り構造の土手っ腹に風穴を開けて、全官庁組織横断的な課題追求型組織への転換を実現する
l 政府の政策実現状況の完全な透明化の実現
l 政府の政策実現に伴う作成全文書の完全保存、改ざん防止の実現
l データに基づく実態把握を前提とした政策提案の実現