日経新聞(11月2日)は「仏先頭に原発に回帰するEU」と題するThe Economistの記事を紹介している。
l EU加盟27カ国で今も原発を維持するのは13カ国だけだ。原発を禁じている国もある。そしてEUの政策決定に大きな力を持つ独仏2カ国は現在、原発を巡り真っ向から対立している。
l フランスが電力の7割強を原発で賄っているのに対し、ドイツは2022年までにすべての原発を閉鎖すると決めている。ベルギーからブルガリアまで様々な国がドイツに追随し、原発の新規建設計画を白紙に戻し、既に稼働中の原発は停止すると約束した。
l だがその後、世論は様変わりした。今回の原発を巡る論争では、ドイツが敗北する可能性が高い。ドイツは原発をクリーンエネルギーに分類することに反対しても、他の加盟国から十分な賛同を得られないことを承知している。オーストリアとルクセンブルクは恐らくドイツに追随するが、他に加勢しそうな国はない。ドイツはEUで最も力を持つと考えられているが、必ずしもそうではない。
l 一方、フランスはEU内での影響力をますます強めている。今やEUの多くの政策を巡る議論は仏の望む方向に進んでおり、EU各国が原発重視に再び回帰しつつあるのも、その一例だ。EU各国は、今や統制経済の色彩を強めつつある産業政策から、世界にEUの影響力を拡大させようとする外交政策まで、あらゆる面でフランスに同調するようになっている。
原発をめぐってのEU内での独仏の対立は仏が優位に立ち、EU各国は再び原発重視に回帰しつつあるというのだ。
原発路線への回帰の要因はこの記事からは読みとれない。
しかし50年までにカーボンニュートラルを実現する上で原発に依存せざるを得ないという現実的な状況が各国のエネルギー政策を転換しつつあると考えられる。
日本でも同様の認識が支配的だ。
しかしながら、日本の脱炭素政策は脱原発を前提に構築せざるを得ない宿命にあることを忘れてはならない。
なぜなら日本は世界でも稀に見る地震大国であるからだ。
東日本大震災の福島原発のメルトダウンは、津波による全電源喪失によって核燃料の冷却が不可能になったことが要因と理解されている。しかし実は福島原発は、全電源喪失以前に地震によって原子炉の冷却システムの配管、配線が破壊されていたことが主たる原因でメルトダウンしたことが明らかになっているのだ。
そして現在保有している全ての原発が耐震性において福島原発同様に重大な欠陥を有している。
いつ起きるかもしれない地震に備えて原発の耐震性を万全なものにしておくことは事実上不可能とさえ言えるのだ。
日本は従って原発に依存することなく50年までにカーボンニュートラルの課題を解決しなければならない。そして脱原発を前提とすることによって、エネルギー源を100%再生エネルギーに依存せざるを得ず、それゆえに再生エネルギーへの徹底した技術開発、投資そして運用システムの構築のプレッシャーが高まり、結果的に世界に先駆けて脱炭素世界を実現することが可能になるのだ。
つまり日本にとっては脱原発こそ脱炭素の切り札となるということだ。