日産は2010年に世界に先駆けてEV・リーフを販売した。しかしリーフはその後の10年でテスラに大きく遅れをとり、今では世界の販売台数ランキングで第7位。テスラはリーフの約7倍の販売台数を誇示する圧倒的首位の座を獲得している。
日産リーフの敗北の要因はどこにあったのだろう。
日経新聞2021年11月30日に掲載された中山淳史氏は「早すぎた日産『リーフ』」と題して日産「リーフ」のテスラに対する敗北の理由を論考している。
中山氏の論点を整理すると敗北要因は以下の通りになる。
1. 世界の急速なEV化の到来を予測して10年で1000万台の市場規模を想定した。手っ取り早くシェアを取りに行くために。利幅が小さいコンパクトカーのセグメントに集中したしかし市場規模はそれほど伸びず実際には200万台にとどまった。結果的に薄利のまま台数も伸びず利益額で遅れをとった。
2. 政府のEV化促進の環境整備も本腰が入るまでには至らなかった。中山氏は遠慮気味に次のようなコメントをしている。「自動車産業が求めないのか、政府が気づかないのか。いずれにしても世界の趨勢に対し、日本だけがEVや再生エネルギーのうねりに気づかぬフリをしているように見えるのは、一つの事実だ」。実はトヨタとそれをサポートする経産省がEVに乗り気でなく、燃料電池車に中途半端な未練を寄せながら結果的に世界から遅れを取ってしまっている。
3. しかし決定的なリーフの失敗の要因日本のお家芸であるものづくりの発想による開発から脱却できなかったことだった。中山氏は次のように指摘する。EVによって「データを使った新産業が誕生する余地が大きい。各種調査機関によれば、将来はハードと同規模の『まだ見ぬ産業』が現在の自動車産業に乗っかるイメージだ。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は自動車新時代のバリューチェーンを10階層に分け、『10の選択肢』(下図参照)としてまとめる。ハードの支配とともに重要なのはOS(基本ソフト)やプラットフォーム、エコシステムの支配だが、今の日本車メーカーはEVをいつまでに何車種発売するか、の段階に議論はとどまる」。
テスラの戦略
EVで世界を圧倒するテスラの戦略を見てみよう。そこには従来の製造業の世界では想像もできなかった情景が広がる。まずは戦略が導かれるテスラの掲げるビジョンに触れておこう。テスラのビジョンは何と「スマホ型EVの開発」だ。
スマホを進化させてどこでも移動可能な車にするということだ。
このビジョンを実現するために必要な具体的な目標を三つ設定している。
1. ソフトウエアドリブンで顧客価値を提供する。ハードはソフトによってコントロールされるというアーキテクチャーが大前提だ。従って顧客に対する提供価値はソフトの価値の高質化によって決定的なものになる。そしてソフトは継続的に進化し、それをシームレスに利用するためにオンラインでアップデートされる。そのためにサブスクでの提供が前提になる。
2. 顧客体験による提供価値の進化。ソフトの進化は顧客体験に基づく期待や要望やクレームによって実現する。車は常時オンラインで繋がり、全ての人データが収集され、データの解析から改善点が抽出される。また販売も全てオンラインで実施され、ユーザーの要求地点で試乗が可能になる。
3. 主要部品は自社開発を原則としている。最も大切なエンドユーザーコンピューティングは当然自社開発であり、ここに競争優位の原点が集約されている。さらにバッテリーや半導体も自社開発することで顧客価値の継続的な進化が保証されている。
テスラの戦略ストーリーを図解すると下図のようになる。ここに示されたテスラの戦略ストーリーはこれからのものづくりの基本テンプレートになるに違いない。