1月17日付け日経新聞は一面で、「経済安全保障推進法案」について報じている。
「政府は社会・経済活動に不可欠な物品の国内調達を維持するため、サプライチェーン(供給網)の構築を財政支援する仕組みを新設する。半導体や医薬品を支援対象に指定し、事業者の研究開発を後押しする」。
「政府は緊急時に物品を調達できなくなる事態を防ぐための手立てが要ると判断した。17日召集の通常国会に提出する『経済安全保障推進法案』に支援の仕組みを明記する。2023年度中の運用開始を目指す。
「安定確保へ支援が必要と判断した物品を『特定重要物資』に指定する。現時点で半導体、医薬品、大容量電池、希土類(レアアース)といった重要鉱物を想定する」。
この政策は、TSMCの工場を熊本に誘致し、政府が総投資額8000億円のうち5000億円規模の補助金を支出する方針決定を後付けで正当化するために策定された感が否めない。
このTSMCへの補助金はいくつかの問題点がすでに指摘されている。
なぜ、株式投資ではなく、補助金なのか。
なぜ、最先端の技術の半導体製造設備ではないのか。
なぜ、サムソン電子ではなくTSMCなのか。
疑念は晴れないまま事態は進行している。
中でもこうした補助金の意思決定が恣意的に行われないための仕組みづくりの必要性が取りざたされていた。
このような疑念に応えるための法案整備がとって付けたように後付けで出てきた感じだ。
補助金制度に正当性はあるか?
さらに問題とすべきはこうした補助金制度についてのそもそも論的な議論だ。
論点は二つ。
一つは今回の補助金対象の半導体、医薬品、大容量電池などは、そもそも日本企業が競争力を失って、もはや挽回の手立てを失っている産業であり、これに補助金をつけて振興を支援しても結局は無駄金の散財に終わるという点だ。
無駄金に終わらないためには。TSMCのように海外から先端企業の工場を誘致する他に手立てはない。
しかしその場合は出資側の判断でいつ撤退するかもしれないというリスクを排除することはできない。
となると本来の目的である危機管理のための供給能力の持続的確保の保障が担保されないことになる。
半導体や電池より食料の自給が先では?
二つ目の論点は、半導体や電池などの産業用部品よりもっと切実な物品の供給力の維持が必要なものがあるということだ。
国民の生活の基盤である、食料とエネルギーだ。
食料もエネルギーも自給率は極めて低く心もとない状態にある。
食料の中でも小麦、大豆、飼料用とうもろこし、畜肉、植物性油脂などの自給率は20%を切っている。
食料とエネルギーの自給率の高度化こそ官民一体となって取り組むべき課題だ。
畑作農業、畜産業、そして再生可能エネルギーの分野への重点的な金銭的、技術的な支援こそが求められている。