トマ・フィリポン ニューヨーク大学教授が3月22日付け日経新聞に寄稿し、GAFAMに代表するテック大企業の市場独占が資本主義を揺さぶっている。と警鐘を鳴らしている。
以下にその要旨を掲載する。
1. 筆者の推計では米国の物価は本来あるべき水準より8%高い。これを米国の標準的な世帯の支出でみると、毎月300ドル(約3.5万円)以上の税金を独占企業に払っているようなものだ。全世帯の12カ月分を足し合わせれば、独占企業の超過利潤は年間6千億ドルに達する計算になる。
2. 独占は価格を引き上げ、企業利益を膨らませている。第2次世界大戦後から現在までの米国の非金融企業における税引き後利益の国内総生産(GDP)比をみると、長く6%前後で推移していたが、ここ20年ほどは9%前後に上昇している(図参照)。
3. 利益は拡大し、自己株買いや高配当など株主への配分は増加したが、労働者には配分されず、労働分配率は下がり、物価水準の上昇と相まって実質賃金は目減りしている。資本所得は労働所得より格段に集中しやすいから、世帯から独占企業の株主への富の移転は不平等を拡大する。
4. ビッグテック企業にはもう一つ問題点がある。前の世代の巨大企業と比べ、富の集中の度合いが甚だしいことだ。従業員数もサプライヤー(部品会社など)の数も比較的少ないし、大きなリターンを提供する相手は株主であり、経済に広く恩恵は行き渡らない。
5. 競争衰退により民間部門のGDPは1兆ドル以上縮小したと推定される。逆にいえば、米国の市場に1990年代後半の競争が復活したら、実質労働所得は1兆ドル以上増えるはずだ。
6. 規制当局はビックテック企業の独占を排除しようと動いている。反トラスト法の適用を試みようとするがうまくいかない。ビックテックは有望な市場を開拓しているベンチャー企業を成長初期段階で買収するから、買収段階での規制は事実上不可能だ。
7. しかも規制当局はプライバシーを保護したいし、有害なコンテンツや偽情報の拡散を防ぎたい。GAFAMの市場支配力の一部は膨大なデータを掌握していることに由来するため、規制するとなればデータの保護とプライバシー法が関わってくる。ビッグテック規制問題は一筋縄ではいかない。
かくしてビッグテック企業による市場独占は資本主義の根本原理である自由競争を制限し、過剰な利益を独占し、その利益の分配は富裕層に偏り、超過利潤の源泉である高価格と相まって所得格差の拡大を加速させている。
しかしこの事態に対処する当局の反トラスト法の適用による規制は、決定的な有効性を欠いている。ビックテック企業の利益源泉は膨大なデータにあるからだ。仮にビッグテックの所有する膨大なデータの分割を実行させることができたとしても、ビッグテックの提供する検索エンジンの機能が減衰し、検索エンジンのユーザーの困惑が広がることになるだけだ。
ビッグテック企業の抱える膨大なビッグデーターに基づく様々なサービス水準の質が低下することはほぼ考えにくいだろう。つまりデータの分割をしてもビッグテックにとっては痛くも痒くもないということだ。
むしろビッグテックの保有するデータについて所有権を持つのはデータを提供しているユーザーではないのかということの方が問題としては大きい。ユーザーは無償で提供される検索エンジンサービスを使い込むうちに、せっせとビッグテック企業に利益源泉をせっせと無償で提供してきたという理不尽な状況にメスを入れることが必要だということだ。
つまりビッグテック企業の利益独占を排除するためには、データの所有者であるユーザーにビッグテックの利益を配分する仕組みを導入することが極めて有効であることは間違いない。
こうすることでビッグテック企業が拡大した貧富の格差の拡大に歯止めがかけられることになる。
ビックテック企業の市場独占は反トラスト法によっては決して対抗できないということだ。