働く人をコストではなく、価値を生み出す源泉ととらえる「人的資本」の開示が、2023年3月期の有価証券報告書から上場企業に義務化される。
日経新聞の2023/03/06「オピニオン」では人的資本の開示のユニークな事例を紹介している。
(「人的資本、ユニーク開示続々」上級論説委員 西條 都夫)
この記事では次の事例が紹介されている。
l 職場の推奨率
Ø 北国フィナンシャルホールディングス(FHD)が採用している。「あなたの職場で働くことを、親しい友人や知人にどの程度お薦めしますか」と従業員に質問し、「とてもお薦め」という前向きの答えから、「絶対に薦めたくない」といったネガティブな答えを引き算した値で測定している
l エンゲイジメント
Ø 「仕事にやりがいを感じる」「この会社で働けてよかった」などの質問で仕事や仕事に関わる環境に対する満足度を従業員に問いかけ測定する。ダスキン、京セラ、出光興産は世代別の開示も行っている
l 出生率
Ø 伊藤忠商事は22年4月に働き方改革の成果として、同社の女性社員の合計特殊出生率の推移を公表した
l 新卒離職率
Ø 若年離職率の低い企業は、建前と実態の隔たりの小さい、嘘のない会社といえる。会社の人事部の言葉が信用に足るのか、迷う学生にとっても、意味ある指針になろう。
以上の例示に触発されて筆者も人的資本指標をいくつか考えて見た。
l 付加価値生産性 従業員一人当たりの付加価値額を測定する。ただし従業員数は変動するので工夫が必要になる
l 従業員提案件数
Ø 仕事、職場環境、人事制度、提供する価値などに対する改善提案の件数を測定する。提案制度が導入されている企業では当たり前に測定されている。提案がどれだけ課題化され、実行されたかの追跡データがあればなお良い指標になる
l 有給休暇取得率
Ø ワークライフバランスに対する配慮が行き届いてはじめて人的資本の活用が実効性をあげるという観点で有効ではないか
l スキルアップ・トレーニング時間
Ø スキルアップのために勤務時間のうちどれだけの時間を割いたかを測定する これも一人当たりの時間が測定できると良い
どのような指標を開示するかは、経営者が人的資本の活用をどのような形で実現しようとしているかを端的に表現することになる。
つまり人的資本の開示によって経営者は人材に期待する価値観が問われることに他ならない。