キーエンスの高業績の理由はその優れた戦略ストーリーにある。
キーエンスの戦略ストーリーは下の図のように表現できる。
「戦略ストーリー」とは
筆者の考える戦略ストーリーの構成は、
Mission→Vision→Objectives→KFS(Key Factor for Success)であり、
それぞれは因果関係(結果→原因)で結ばれている。
上の図はこの型によって作成されている。
この戦略ストーリーの型は筆者が一橋大学教授の楠木建氏著『ストーリーとしての競争戦略』に触発されて独自に構想したメソッドである。
また以下に述べるキーエンスの戦略ストーリーはこれまた筆者の独断で構想したものであり、キーエンス社の見解を解説するものでないことを予めお断りしておく。
なお本稿を作成するにあたって参考にした資料は下記のとおり。
延岡健太郎著『キーエンス高付加価値経営の論理』日本経済新聞出版
西丘杏著『キーエンス解剖』日経BP
キーエンスの「ミッション」
ミッションは企業の存在理由を定義する。企業が最終的にどのような形で社会貢献するかを表現しているのがミッションだ。
キーエンス社のミッションは「日本一給与の高い会社にする」ということだ。
とてもシンプルでわかりやすい。従業員の仕事に最高の形で応える会社を作るという創業者の意思が簡潔に表現されている。
このミッションを実現するための具体的な方法、あるいは中期的なあるべき姿を示すのがビジョンだ。
キーエンスの「ビジョン」
キーエンスのビジョンは「モノではなく、課題解決を売る」と定義されている。
給与の高い業種の筆頭はコンサルタント会社会社だ。彼らはモノではなく課題解決を売っている。したがって製造業ではなくコンサルタント業を目指せば給与の高い会社になることが可能だ。モノは課題解決のための手段の一つということになる。
ビジョンの実現のための具体的目標がオブジェクティブズだ。
キーエンスの「オブジェクティブズ」
キーエンスの場合オブジェクティブズとして「粗利率の目標を80%と設定する」ということを掲げた。
では「粗利率を80%にする」には何が必要なのだろうか。この目標実現に向けての具体的な打ち手を示すのがKFSだ。ここから戦略ストーリーがいよいよ本格的に展開される。
キーエンスのKFS
キーエンスでは粗利率80%の実現のためには、何よりも「顧客の付加価値の最大化に貢献する」ことが最も大事なことだということに気づいた。
自分本位に粗利率を80%にすることを求めても、顧客が納得するソリューションでなければ見向きもされない。提案したソリューションが顧客にとって、原材料コストの削減や、生産性の向上に繋がり、結果として付加価値の拡大を実現してはじめて受け入れてもらえる。
そのためには何が必要か。
「顧客の潜在ニーズ対応のソリューション提案」をすることにほかならない。
顧客が気づいている顕在化したニーズに応えるのはあたりまえの対応でしかない。そのような対応は気の利いたメーカーならどこでも可能だ。
顧客さえもが気づいていない潜在的なニーズを掘り起こして、このニーズを満たすソリューションに対してなら、顧客は喜んで言いなりの対価を払っても惜しくはない。
それができれば自社の粗利率80%が自然と実現するというわけだ。
さらに続けて「潜在ニーズ対応の課題解決提案」はいかにして可能になるか。大きくは三つの並外れた能力を獲得することが求められる。
その三つの能力とは、
「並外れたSCM」
「並外れた商品(付加価値)開発力」
「並外れた営業力」だ。
それぞれについて次回以降、順次解説していこう。