テスラの瀬延暦ストーリーは第4図で示されるとおりだ。
テスラのビジョンを実現するための第3番目の目標は「絶えざるコストダウン」だ。
テスラは持続的にコストダウンを追求することで販売価格を引き下げ、EVの普及のスピードを加速することを狙っている。テスラのコストダウンは次の4つの柱で推進されている。
1. 無店舗販売・広告費ゼロ
2. 主要部品の自社開発、製造
3. ギガファクトリー
4. ハード、ソフトの全モデル共通化
無店舗販売
テスラは販売店舗を持たない。代理店も使わない。広告費も使わない。オンラインで顧客と直結して最短の流通経路で販売を完結する。
顧客は例えばYouTubeからテスラのサイトに入り、車種を選択し、ボディーカラーと自動運転ソフトを選択するだけで購入が終わる。1分もかからない超短時間で購入契約が完結する。
顧客が試乗を望む場合には、試乗したい場所を指定すれば試乗車が届けられる。おそらく自動車が発売されて初めての画期的な販売システムのイノベーションが実現されている。
テスラはまた広告費を使わない。SNSを活用してテスラの情報を開示し、広報している。そいて熱狂的なテスラファンがテスラの素晴らしさについてYouTubeやX(旧Twitter)を使って夢中になってアップしてくれる。
主要部品の自社開発、自社製造
テスラは主要部品を自社で製造することで持続的なコストダウンを実現してきた。
その第一歩はバッテリーの自社製造だった。テスラはEVに参入してすぐにバッテリーの供給能力が世界的規模で圧倒的に少ないことに気づいた。急増する需要に応えるには自社でバッテリーを製造するほかないと決断し、2014年にネバタ州に年間50万ユニットのバッテリー・セルを製造するギガファクトリーを建設した。自社製造することでバッテリーの技術開発の道が拓け、バッテリーの自社開発に繋がっていった。
バッテリー・セルの製造が始まると次にバッテリー冷却機能を付加してバッテリー・パックの製造も乗り出し、更にはモーターと結合してドライブ・ユニットをも製造するまでに至った。
このように部品の製造から始めて、モジュールの製造に至る進化が次々に起き主要部品の自社開発・製造が軌道に乗り、拡大している。
EVの要となる部品に半導体チップがある。テスラはこの半導体チップをも自社設計・開発し、2021年に自社開発のAI用コンピューターDOJO用の半導体チップD1を設計・開発した。
テスラは半導体素材のリチウムの精製工程の内製化にも取り組んでいる。近い将来にはリチウムの資源開発にもアプローチするかもしれない。
半導体の自社設計・開発を進化させてきたおかげでテスラは他の自動車メーカーが操業停止や減産に追い込まれた2021年の半導体不足危機において、減産を免れることができた。
ハードウエア部品の自社製造だけでなく、ソフトウエアの開発もテスラはもっぱら自社開発にこだわっている。その究極のソフトがDOJOを駆使して開発する完全自動運転のソフトウエアだ。
テスラはなぜ部品の自社製造にこだわるのだろうか。その理由の一つは自社製造によって次のアドバンテージを獲得できると考えているからだ。
1. 自社開発・製造によって部品の改善スピードが高速化する。
2. 自社開発・製造によって部品の製造コストが下がり、また自社工場の内部あるいは近隣で製造可能になるので、部品の物流コストが低減する。
3. 何よりも全体最適のビジネス展開が可能になる。
ギガファクトリー
既存の自動車メーカーの工場は数万点に及ぶ部品の供給を受けて、それらを組み立てる最終工程を担ってきた。部品メーカーは自動車メーカーの系列に組み入れられ巨大なピラミッド構造の一部として機能してきた。
多数の協力工場が必要なときに必要なだけ部品を自動車メーカーに供給するJITシステムが自動車製造システムの神経系統として機能してきた。
テスラはこの多階層ピラミッド構造を破壊し、主要部品を内製化することを基軸にした工場を建設してきた。勢い工場の規模は巨大化せざるを得なかった。2014年のネバダのバッテリー工場を皮切りに次々と建設された工場はギガファクトリーと称せられるに相応しい規模(2023年稼働したテキサス工場は93万㎡)になった。
このギガファクトリーでのイノベーションの最たるものはギガプレスであった。70以上もの部品から構成されるモジュールをたった3点の部品を一体化して一つのモジュールに鍛造成型するのがギガプレスだ。まさに飛躍的な工程短縮とシンプル化が実現した。これで日本の製造業のお家芸であった「すり合わせ技術」は完全に過去の遺物になったというわけだ。
ギガファクトリーのもう一つの特徴はサプライヤーの工場を近接して建設することだ。これによって部品の供給に伴う物流コストが激減した。同時にサプライヤーとの原価底辺に向けての協業がより効率的に進められることになった。
製造と設計についてはマスクの徹底したこだわりがある。それは設計技術者を製造現場の側に常駐させることだ。設計技術者が現場から遠いところで仕事をすることを辞めさせて、設計者が現場を常に観察し、現場の声を受け止めて次々と工程改善をしていくことを求めている。まさに終わりのない原価低減がスピーディに進行する仕掛けが出来上がっている。
ハード・ソフトの全モデル共通化
テスラの製品モデルはいくつかあるが、全てのモデルでできる限りの共通化を実現している。ハード、ソフトの共通プラットホームの上でモデルごとに異なる仕様だけが付加されることで、設計、開発、製造の全プロセスにわたって圧倒的な原価低減が可能になっている。