トランプの経済政策は次の四本柱から構成されているように見える。
1. 移民の制限及び不法移民の強制送還
2. 輸入関税の引き上げ
3. 法人税、所得税の減税
4. ドル安に向けた為替政策そのための金利引き下げ
これらの政策を総合的に展開して達成すべき目的は次のとおりだ。
1. 米国製造業の復活
2. 労働者階級の賃金上昇による所得拡大
3. 消費拡大による継続的な経済成長
何よりも関税を武器に輸入品をシャットアウトして、国内の製造業を活性化して地消地産を推進する。中南米やアジアに移設した工場を呼び戻し国内供給力を拡充する。
法人税の減税は製造業のこうした米国内設備投資を助成し、工場の海外移転の歯車の逆転に拍車をかける。
また法人税減税は製造業のみならず全産業に納税地の本国回帰を推し進めるドライバーになる。他国企業の納税本社も米国に転居するかもしれない。
さらにドル安政策が輸入品の価格を押し上げ、競争力を弱め、米国製造業の復活を後押しする。
こうして慢性的な貿易赤字ばかりか経常収支そのものの赤字が解消され、米国内での資金供給と資金循環が充実する。
何よりも製造業の雇用が拡大する。これに加えて移民の制限によって労働力供給が絞られ、労働者の賃金の上昇と、所得拡大と、消費の拡大が確実に実現する。結果として継続的な経済成長が可能になる。
継続的な景気拡大は社会不安を取り去り、社会は安定化に向かい、MAGAの実現につながる。
盲点はないか
以上のシナリオ、全てうまく回り出しそうだが懸念点も見え隠れする。最大の問題は物価の上昇の危険性が潜んでいるということだ。
高率関税とドル安は物価の上昇要因になるし、労働者階級の賃金上昇も高物価の引き金になる。また減税による投資、消費の拡大は、需給ギャップを大きくして物価の上昇に拍車をかけインフレが加速する。
ただでさえ今の米国の労働者階級は高物価に悩まされ、生活水準を引き下げるしか対応できない状況に追い込まれている。そしてそれがトランプの復活をもたらした最大要因であったわけだ。
となると物価の上昇は労働者階級はこんなはずではなかったというトランプに対する幻滅感を助長し、一向に生活が楽にならない状況の中で社会不安が高まり、不安定化していくことが見えてくる。
インフレでも生活苦に直結しないかも
このリスクシナリオが外れる可能性がる。米国とロシアだけが唯一持っている地政学的な優位性によって、インフレは生活苦に直結しない可能性がある。
その地政学的優位性とは、食料とエネルギーの自給が可能だということだ。日本と違って米国は農業畜産業大国であり食糧の自給率は100%を超える。
エネルギーも化石エネルギーではあるが、シェールガスの発掘によって自給どころか、輸出さえ可能な状況だ。
食糧とエネルギーという二つの基本消費財が自給可能であることが、基本財の価格を安定化し、インフレ基調であっても生活苦に直結しない状況が可能になると考えられる。
少なくともこの基本消費財の価格安定を維持することが、トランプ政権が長期的に安定NI向かうための最重要課題ということができる。