COVID-19によるパンデミックは働き方を大きく変えた。リモート勤務が常態化したことだ。
従業員はリモート勤務を経験して、その時間と場所の制約から自由な働き方に魅了され、もはや手放しがたい勤務形態になっている。
しかしパンデミックが収束を迎えて、企業は規律と協働を求める観点からリモート勤務に制限を求め始めている。従来の在社勤務に全面的に戻ることは無理としても、リモートと在社の両立を目指しつつある。
このハイブリッド型の勤務形態こそがこれからの主流となって行くだろう。
ではハイブリッド型勤務形態の成功要因(Key Success Factor)は何だろう。
Harvard Business Review Online 6月30日号に掲載された
がこの疑問に答えている。
ハイブリッド型勤務はなぜ求められるのか
従業員はリモート勤務によって働く時間と場所の制約から自由な働き方を手に入れた。リモートであれば在宅に限らず好きな時間に好きな場所での働くことができる。
企業にとってもリモート勤務は従業員の仕事に向かう自律性を拡充し、しかもそのことが生産性を高めることに気づき始めている。
一方リモートワークによって希薄化されてしまうのが組織に対する帰属意識とそれに基づく協働の効果だ。
この二つのコンフリクトを解消するために企業はハイブリッド型の勤務形態を求め、それが今や大きな流れになろうとしている。
しかし企業はオフィスワークに従業員をやみくもに引き戻すだけでは従業員が積極的にハイブリッド型に帰還する状況を作ることはできない。
その前にやることが三つある。
ハイブリッド型勤務形態の成功要因
しかしハイブリッド型勤務形態を成功に導く要因があるはずだ。HBRの論文では三つ提示されている。基本的には何よりも従業員がオッフィスワークを積極的に選択したくなるように、オフィスのリモートワーク環境を整える投資を実行することだ。
1. いかなる場所でも音と視覚のプライバシーを考慮することだ。
「筆者らのデータでは、従業員が好むのは視覚のプライバシー(39%)よりも、音のプライバシー(61%)がある場所だ。つまり、仕事場の外にいる人が見える、または外から見られる場所よりも、外の声が聞こえない、または外から聞かれない場所での仕事を好む」。
2. プロフェッショナル用オーディオ機器の提供
「筆者らのデータでは、一般消費者向けのオーディオ機器や、ノートPC内蔵のマイクとスピーカーを使う人に比べ、プロフェッショナル用のオーディオ機器を使う人は、バーチャル会議で自分が受け入れられている感覚がより強いと答えている。
実際にプロ用ヘッドセットの使用者は、一般向けの機器や内臓オーディオの使用者に比べ、バーチャル会議の会話で疎外感を感じる割合が11%低い。さらに、会議中に言葉が聞き取れない人の割合は、プロ用ヘッドセットの使用者は内臓オーディオの使用者より14%低く、一般向け機器の使用者より12%低い」。
3. 企業の従業員に対する職務遂行能力への信頼
「企業は、従業員に働く場所と時間を選ぶ自由を与えることで、彼らの職務遂行能力を信頼しているというメッセージを送ることになる。その信頼は、かなりの高確率でリーダーとチームに還元され、インクルージョンと帰属感に富む、結束の固い企業文化の構築につながることをデータが示している」。
リモート勤務形態の魅力を知ってしまった従業員を再びオフィスに迎え入れるには、オフィス環境をハイブリッド型へと高度化する必要があるということだ。
ハイブリッド型オフィスはここで述べたことは最低条件であるだろう。
さらなる進化が始まりつつあるということのようだ。
トマ・フィリポン ニューヨーク大学教授が3月22日付け日経新聞に寄稿し、GAFAMに代表するテック大企業の市場独占が資本主義を揺さぶっている。と警鐘を鳴らしている。
以下にその要旨を掲載する。
1. 筆者の推計では米国の物価は本来あるべき水準より8%高い。これを米国の標準的な世帯の支出でみると、毎月300ドル(約3.5万円)以上の税金を独占企業に払っているようなものだ。全世帯の12カ月分を足し合わせれば、独占企業の超過利潤は年間6千億ドルに達する計算になる。
2. 独占は価格を引き上げ、企業利益を膨らませている。第2次世界大戦後から現在までの米国の非金融企業における税引き後利益の国内総生産(GDP)比をみると、長く6%前後で推移していたが、ここ20年ほどは9%前後に上昇している(図参照)。
3. 利益は拡大し、自己株買いや高配当など株主への配分は増加したが、労働者には配分されず、労働分配率は下がり、物価水準の上昇と相まって実質賃金は目減りしている。資本所得は労働所得より格段に集中しやすいから、世帯から独占企業の株主への富の移転は不平等を拡大する。
4. ビッグテック企業にはもう一つ問題点がある。前の世代の巨大企業と比べ、富の集中の度合いが甚だしいことだ。従業員数もサプライヤー(部品会社など)の数も比較的少ないし、大きなリターンを提供する相手は株主であり、経済に広く恩恵は行き渡らない。
5. 競争衰退により民間部門のGDPは1兆ドル以上縮小したと推定される。逆にいえば、米国の市場に1990年代後半の競争が復活したら、実質労働所得は1兆ドル以上増えるはずだ。
6. 規制当局はビックテック企業の独占を排除しようと動いている。反トラスト法の適用を試みようとするがうまくいかない。ビックテックは有望な市場を開拓しているベンチャー企業を成長初期段階で買収するから、買収段階での規制は事実上不可能だ。
7. しかも規制当局はプライバシーを保護したいし、有害なコンテンツや偽情報の拡散を防ぎたい。GAFAMの市場支配力の一部は膨大なデータを掌握していることに由来するため、規制するとなればデータの保護とプライバシー法が関わってくる。ビッグテック規制問題は一筋縄ではいかない。
かくしてビッグテック企業による市場独占は資本主義の根本原理である自由競争を制限し、過剰な利益を独占し、その利益の分配は富裕層に偏り、超過利潤の源泉である高価格と相まって所得格差の拡大を加速させている。
しかしこの事態に対処する当局の反トラスト法の適用による規制は、決定的な有効性を欠いている。ビックテック企業の利益源泉は膨大なデータにあるからだ。仮にビッグテックの所有する膨大なデータの分割を実行させることができたとしても、ビッグテックの提供する検索エンジンの機能が減衰し、検索エンジンのユーザーの困惑が広がることになるだけだ。
ビッグテック企業の抱える膨大なビッグデーターに基づく様々なサービス水準の質が低下することはほぼ考えにくいだろう。つまりデータの分割をしてもビッグテックにとっては痛くも痒くもないということだ。
むしろビッグテックの保有するデータについて所有権を持つのはデータを提供しているユーザーではないのかということの方が問題としては大きい。ユーザーは無償で提供される検索エンジンサービスを使い込むうちに、せっせとビッグテック企業に利益源泉をせっせと無償で提供してきたという理不尽な状況にメスを入れることが必要だということだ。
つまりビッグテック企業の利益独占を排除するためには、データの所有者であるユーザーにビッグテックの利益を配分する仕組みを導入することが極めて有効であることは間違いない。
こうすることでビッグテック企業が拡大した貧富の格差の拡大に歯止めがかけられることになる。
ビックテック企業の市場独占は反トラスト法によっては決して対抗できないということだ。
日経新聞2月28日に「セブン、ヨーカ堂を守れるか」と題する中村編集委員によるコラムが掲載されている。
「セブン&アイ・ホールディングスが投資ファンドから、百貨店のそごう・西武に続き、イトーヨーカ堂の売却を求められている。セブン&アイは約2兆3千億円を投じた米国でのM&A(合併・買収)を実施し、コンビニ優先戦略にかじを切った。果たして20年以上の停滞が続く総合スーパーを防衛できるのか」。
7&iホールディングスの首脳陣は、次のような論拠で物言う株主の意向に抵抗しているように見える。
「約8万品の品ぞろえを持ち、1日当たり140万~150万人が来店する顧客資産を生かし、成長力が見込める食とデジタル戦略の相乗効果に最後の期待を寄せることが可能だ」。
中村氏はヨーカ堂の売却に反対の立場に立つ。そして法政大学の矢作敏行名誉教授の説を引用して、売却反対の自説を補強している。
「矢作氏は『世界の小売業の趨勢を見ても、店舗とデジタルを一体化した企業に変身することが不可欠。今後は店舗の価値が高まる』と指摘する。店は売り場という役割だけでなく、商品の注文受け付けや物流などを手がける拠点として不可欠と見るからだ」。
矢作氏の説は流通業の将来は店舗とECの融合によるバーチャル&リアル・ストアへの大転換にかかっていると見ている。
とはいえヨーカ堂を現状のままにして大転換がはかれるとも思えない。
バーチャル&リアル・ストアへの大転換はどのように可能か?
むしろ店舗とECの一体化はセブンイレブンの店舗群を活用することによって可能になるのではないか。ECの競争優位は物流力によって決まる。それもラスト・ワンマイルと言われる顧客への最終配送力だ。
ラスト・ワンマイルに店舗を構えるコンビニはこの点においてもヨーカ堂に比して強力な優位性を持つ。しかもその拠点数の圧倒的な多さがモノを言う形になる。
となるとヨーカ堂はEC業態にあっての競争力は集客力とマーチャンダイジングの優位性に頼るほかはない。
ヨーカ堂はこれまでなんども業革の嵐による再建のメスが入れられてきた。セブンイレブンの成功体験を引っさげて鈴木敏文氏が先頭に立っての改革も、ヨーカ堂の再建を実現できなかった。
むしろ成功体験が赫赫たるものであったが故に失敗に終わったのだとも言える。
つまりセブンイレブンが好調を維持する限り、ヨーカ堂の再建は不可能だと言うことなのだ。
とすればヨーカ堂を抱え続けるとするならば、重い切った業態転換が必要となる。
ヨーカ堂を総合スーパーから食品スーパーへと業態転換する道だ。
食品領域でセブンイレブンが構築し、成果をあげ続けているビジネスモデルは、ユニクロやニトリと同様の製造小売業と言う業態に近い。おにぎり、弁当、焼きたてパン、惣菜などを製造する専業ベンダーと運命共同体の関係をつくりあげ、一体となってマーチャンダイジングとSCMを運営する形での製造小売業だ。
食品スーパーではセブンイレブンのこの製造小売りのビジネスモデルは活かされるはずだ。
食品以外の領域はそれこそ場所貸し業に専念し、ユニクロ、ニトリ、イケア、東急ハンズ、MUJIなどを誘致すれば良い。
そしてこれらの分野でのこれまでのマーチャンダイジングの知財はECで活用することができるはずだ。
ヨーカ堂をグループ内に残して活用するのならこうした活用法が唯一残された道ではないだようか。
2月24日の日経新聞「経済教室」で長崎大学の鈴木教授(元内閣府原子力委員会委員長代理)は「原発の依存度を低減へ国民的議論を」提唱している。
論旨をまとめると次のようになる。
1. 世界の電力供給における役割が現状程度か低下するのは明らかだ。世界の総発電量に占める原子力発電のシェアは、最近は10%前後で推移する。発電量も2020年は12年以来の減少(前年比3.9%減)となり、95年以来の低水準となった。であれば脱炭素電源としての役割も限定的なものと考えざるを得ない。
2. 停滞傾向の最大の要因として考えられるのが、原子力発電の競争力低下だ。脱炭素電源としての原子力発電コストは、再生可能エネルギーの発電コストの急速な低下に追いつかないとみられる。
3. 日本の20年の原子力発電比率は4%にすぎない。日本の電源構成で原発は「主役の座」を既に降りている。政府は30年度の原発比率を20~22%とする目標を掲げるが、とても実現できそうにない。NHK世論調査(20年11~12月)によると、7割近い国民が原発依存低減を望んでおり、再稼働についても賛成が16%に対し反対は39%にのぼる。
4. 高速増殖炉「もんじゅ」の廃止が決定した後も、核燃料サイクルについては議論もされていない。
5. 高速炉と核燃料サイクルの推進を大きな目標としてきた原子力研究開発も、廃炉や廃棄物処理・処分を最大の柱とする方向に転換すべきだろう。使用済み燃料の最終処分の見通しもない現状を考えれば、50年代から維持してきた「全量再処理路線」の見直しも不可避だ。
6. 原発事故が残した負の遺産はいまだに重く、国民の負担となっている。何よりも事故炉の廃止措置は、技術的に最も困難な課題であるとともに、経済的にも社会的にも今後40年以上にわたり取り組んでいかなければならない問題だ。
7. 福島の復興と避難した被災者の健康、生活、環境回復なども、負の遺産として東京電力のみならず政府が責任を持って取り組まなければいけない課題だ。
8. こうした負の遺産への取り組みが、本来は原子力政策の最優先課題であるべきだ。
9. 原子力の将来にかかわらず最優先で取り組まなければいけない課題(福島第1原発の廃炉、福島の復興、放射性廃棄物問題、人材確保など)が山積みだ。
日本の原子力政策の課題を整理してみよう
以上の鈴木氏の論考をベースに日本の原子力政策の重要課題を整理してみよう。
1. まず50年を目標年度とするゼロエミッションのエネルギー構成比において原子力の占める比率はゼロとする。
2. 原発は全て即時廃炉にする道を選択する。
3. 今後の原子力政策は以下の課題を重点として取り組むこととする。
① 福島原発の廃炉とこれに伴う汚染物質(デブリ、汚染土、汚染水)の完全処理。
② 福島原発の事故に伴う被災者の完全救済。
③ 使用済み核燃料の処理法の研究開発。
④ 原発の安全な廃炉の方法の研究開発。
⑤ 福島原発廃炉ならびに使用済み核燃料処理に関わる人材の養成。
ところで、福島原発の事故原因はいまだに明らかになっていない。二つの仮説がある。
1. 津波によって全電源が喪失し、核燃料の冷却が不可能になった。
2. 地震によって核燃料冷却システムが破壊され、冷却が不邪脳になった。
最近では二番目の仮説が有力視されてきている。
地震国日本において活断層を避けて原発を建設することは不可能に近い。
とすると巨大地震によっても破壊されない冷却システムの組み込みが必須になる。
そのための建設費、あるいは既存原発の補修費には天文学的なコストが必要になる。
またそのような補修がなされるまでの原発の稼働にあたっては、
1. 万が一のための住民の避難経路の確保、
2. 損害が起きたときの損害保険の付保
が前提となされなければならない。
これらの課題は先に述べた重点課題に加えて、今稼働している10基の原発について、早急に講じられるべき処置になる。
福島原発の事故を経験した日本は世界の原発の廃炉に向けて、戦略的な経路の研究開発の先頭に立って推進する機会と責務とが与えられたと識るべきである。
1月30日付け日経新聞は「円安の重圧 暮らしに」と題する記事で、円安が「安い日本」を加速させていると警鐘を鳴らしている。
日銀は円安について「基本的にプラスの効果が大きい」(黒田東彦総裁)との立場を崩していない。
しかし円安で輸出が拡大し輸出セクターの収益増加が経済成長のエンジンとなるという構造はもはや失われつつある。
経済のグローバル化の進展とドル危機以降の円高の持続で輸出企業は人件費と物流費の削減を求めて工場を海外に展開してきた。輸出セクターにとって円安はさほどの収益増加を生み出さなくなった。
12年以降の大規模金融緩和による円安の進行は輸入品の価格上昇をもたらした。
加えて、「ほぼすべてを輸入に依存する原油など資源価格の上昇で、21年7~9月の企業間取引の輸入物価指数は前年比で3割上昇。同期間の輸出物価指数の上昇率(1割)を大きく上回った」。
こうして輸出価格と輸入価格を比べて貿易での稼ぎやすさを示す交易条件の悪化が進行した。21年7~9月の交易条件の悪化幅は遡れる05年以降で最大だった。
円安の進行は家計を直撃している。
「幅広い生活品目で輸入依存が進んでいる。国内消費に占める輸入品の比率をみると、家電・家具などの耐久消費財は34%となり、10年ほど前の1.7倍に高まった。食品・衣料品などの消費財も同1.4倍の25%に上昇した。
国内経済は低成長で賃金が上がらない。その中での身近な品目の上昇は家計の重圧となる。一端が家計の消費に占める食費の割合を示すエンゲル係数の上昇だ。21年1~11月は25%超と、1980年代半ば以来の水準に高まった」。
「アップルの「iPhone13」を手に入れるのに必要な労働時間からも日本の買う力の衰えがわかる。英マネースーパーマーケットが各国の月給をもとに計算したところ日本では72時間働く必要があるが、端末価格が日本より高いはずのオーストラリアやデンマークは60時間程度ですむ」。
経済のグローバル化は日本の産業構造を大きく変えてきた。
結果として現れたのは資源から消費財に至るあらゆる物品の輸入依存度の拡大だ。
つまり製造業の空洞化であり、自給率の低下だ。
こうした構造の中での円安は生活者の所得の収縮を伴うインフレの進行と、海外の供給が不安定になることによる経済基盤の不安定化を拡大する。
金融緩和が続く限り生活者は今後貧困と不安定な物資の供給による不安に脅かされることになるかもしれない。
1月17日付け日経新聞は一面で、「経済安全保障推進法案」について報じている。
「政府は社会・経済活動に不可欠な物品の国内調達を維持するため、サプライチェーン(供給網)の構築を財政支援する仕組みを新設する。半導体や医薬品を支援対象に指定し、事業者の研究開発を後押しする」。
「政府は緊急時に物品を調達できなくなる事態を防ぐための手立てが要ると判断した。17日召集の通常国会に提出する『経済安全保障推進法案』に支援の仕組みを明記する。2023年度中の運用開始を目指す。
「安定確保へ支援が必要と判断した物品を『特定重要物資』に指定する。現時点で半導体、医薬品、大容量電池、希土類(レアアース)といった重要鉱物を想定する」。
この政策は、TSMCの工場を熊本に誘致し、政府が総投資額8000億円のうち5000億円規模の補助金を支出する方針決定を後付けで正当化するために策定された感が否めない。
このTSMCへの補助金はいくつかの問題点がすでに指摘されている。
なぜ、株式投資ではなく、補助金なのか。
なぜ、最先端の技術の半導体製造設備ではないのか。
なぜ、サムソン電子ではなくTSMCなのか。
疑念は晴れないまま事態は進行している。
中でもこうした補助金の意思決定が恣意的に行われないための仕組みづくりの必要性が取りざたされていた。
このような疑念に応えるための法案整備がとって付けたように後付けで出てきた感じだ。
補助金制度に正当性はあるか?
さらに問題とすべきはこうした補助金制度についてのそもそも論的な議論だ。
論点は二つ。
一つは今回の補助金対象の半導体、医薬品、大容量電池などは、そもそも日本企業が競争力を失って、もはや挽回の手立てを失っている産業であり、これに補助金をつけて振興を支援しても結局は無駄金の散財に終わるという点だ。
無駄金に終わらないためには。TSMCのように海外から先端企業の工場を誘致する他に手立てはない。
しかしその場合は出資側の判断でいつ撤退するかもしれないというリスクを排除することはできない。
となると本来の目的である危機管理のための供給能力の持続的確保の保障が担保されないことになる。
半導体や電池より食料の自給が先では?
二つ目の論点は、半導体や電池などの産業用部品よりもっと切実な物品の供給力の維持が必要なものがあるということだ。
国民の生活の基盤である、食料とエネルギーだ。
食料もエネルギーも自給率は極めて低く心もとない状態にある。
食料の中でも小麦、大豆、飼料用とうもろこし、畜肉、植物性油脂などの自給率は20%を切っている。
食料とエネルギーの自給率の高度化こそ官民一体となって取り組むべき課題だ。
畑作農業、畜産業、そして再生可能エネルギーの分野への重点的な金銭的、技術的な支援こそが求められている。
FRBがテーパリングの開始を方針として掲げた。
これをきっかけにして金融市場の大波乱が起きてもおかしくはない。
日経新聞の11日付けの「オピニオン」でコメンテーターの梶原誠氏が興味深いデータを示している。
|
2017年 |
現在 |
株価(前年までの全世界の上昇率) |
44% |
66% |
ジャンク債の発行 |
2083本(06年) |
2543本(21年) |
運用会社の資産 |
44兆ドル(06年) |
103兆ドル(20年) |
主要4中銀の資産 |
3兆ドル(06年末) |
26兆ドル(21年11月) |
話題の金融商品 |
サブプライムローン |
SPAC |
FRB |
06年まで利上げ |
22年から利上げへ |
その後 |
バリバショック リーマンショック |
? |
先進国の大規模な金融緩和策によって生まれた過剰流動性がリスクの大きいジャンク債やSPACへと流れ込んでいる。この風景は15年前と変わらない。
ここには表示されていないが不動産価格の上昇も15年前に相当する状況にあるはずだ。
大きく違う点は中銀の資産が異常な膨張を示している点だ。
資産の中身は国債や民間金融機関への貸付、そしてETFを経由しての株式だ。
日銀以外の先進国の中銀にとって金融緩和の行き過ぎの是正策が今年の課題になっている。
すでにFRBは年4回の利上げの実行を宣言している。
利上げが実行されれば国債をはじめとする債券の価格が下落する。
これが引き金になって、ほとんどの金融資産、不動産の価格崩壊が生じる。
そして金融資産や不動産価格のバブルが崩壊した時に生じる今回の惨状は、
リーマンショックの時の4倍に相当する規模で世界を襲う。
これが常識的な現状理解なのだが、FRBをはじめとする先進国の中銀がこのリスクをまるでないかの如く利上げに向かうのはなぜなのか。
彼らは利上げしてもこうしたバブル崩壊のリスクが生じない、あるいは生じさせない施策を講じることを前提としているのだろうか。
物価上昇の範囲内での金利上昇はリスクを回避できるということなら、その根拠を明確に示すことが望まれる。
名古屋大学教授天野浩氏へのインタビューが日経新聞1月10日付に掲載された。
台湾、韓国に席巻されて見る影のない日本の半導体産業。
この状況を一変する技術開発が天野氏のリードのもと進行中だ。
大電流、高電圧のもとで活用されるシリコンに変わる素材「Gan(窒化ガリウム)」だ。
EV、携帯電話基地、データセンター、再生可能エネルギーの蓄電・送配電システムで使われる、電力供給半導体や電圧、周波数を変える半導体(パアワーデヴァイス)の素材がシリコンに変わってGanに置き換わる。
欧米も取り組んでいるが、日本には何年も追いつけないノウハウがある。
すでに天野氏はGan半導体の製造技術を確立している。
30年停滞を続ける日本の産業構造の高度化の突破口がGanによって開ける。
それを担う企業家精神に溢れる企業家の出現が待たれている。
「半導体の素材といえばシリコンというのが常識かもしれない。だが、シリコンにも向いている用途とそうでない用途があって、これからは向いていない用途が増える。引き金を引くのが世界的なカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出実質ゼロ)の動きだ。そうした分野で注目されるのが化合物半導体だ。中でも、窒素とガリウムが結合したGaNに大きな市場ができる」
「簡単に言えば、シリコンは低い電圧、小さい電流のもとで効率的に働く性質がある。ロジックやメモリーという形でパソコン、スマートフォンの演算処理に使うのはそのためだ」
「一方、これから需要が広がるのは高電圧・大電流での用途だ。電気自動車(EV)、携帯電話基地局、データセンター、再生可能エネルギーの蓄電・送配電システムがそうだ。それらに使う電力供給半導体や電圧、周波数を変える半導体はパワーデバイスと呼ばれ、GaNが材料に適している。シリコンでは電気抵抗による電力喪失が大きく、効率が悪い」
「米欧も取り組んでいる。それらが何年も追いつけないほどのノウハウが日本にはあると思う。日本は材料分野に強みがある。シリコンでは台湾や韓国、中国との競争が激しく、今から巻き返すのは難しい。後追いをするより、GaNの新市場で先行したらどうか。GaNを含め、化合物系の半導体はシリコンを使う半導体の1000分の1程度しか市場規模がない。せっかくの好機でもあり、国内企業の手で世界に広げてもらえたらありがたい。昔のようなアニマルスピリッツに期待している」
「基地局やデータセンターの電源装置はおそらくGaNに置き換わっていく。データセンターについて言えば、通信に遅延が起きないよう、利用者の多い都市部に置くケースが増えているが、寒冷地でないことが多く冷却装置が要る。その点、GaNだと空調がなくても動く。シリコンが生み出した経済圏があるとしたら、それを動かすのがGaNだと考えればわかりやすい。5G(第5世代移動通信システム)も『ビヨンド5G』もGaNがあればこそ、能力を発揮できるわけだ」
「技術的には安心して使ってもらえるところまで来た。製造技術もあるが、残った課題が事業化の担い手を見つけることだ」
日経新聞は1月7日「EV大競走 ソニー難敵アップルに先手を打つ」と題する記事を掲載した。
ソニー会長兼社長の吉田氏はCESに登壇し、ソニーカーのコンセプトをプレゼンした。
日経新聞の伝える吉田氏のプレゼン内容からソニーカーのコンセプトを確認してみよう。
「車の価値を『移動』から『エンタメ』に変える」
ソニーの強みである画像センサー、映像・音響技術、コンテンツを結集して、車を移動の道具から進化させ、エンタメを楽しむ空間へと変貌させるのだという。
「リビングのような車」
サスペンションを制御して、路面から受ける車体の振動を打ち消す。
ノイズキャンセルの技術を使って、周囲の騒音を遮断する。
こうしてリビングで映画やゲームを楽しんでいるような環境を提供する。
自動運転につながる安全の追求
40個に及ぶ画像センサーを車内外に搭載し、人間では察知できないリスクを感知する。
リカーリング(継続課金)型の事業モデル
ハードウエアを売って終わりではなく、ソフトを通じて5~10年にわたって車を進化させられる環境をつくる
基本的に(多くの)アセット(資産)を持たない
ハードの製造。組み立ては協力会社に委託する。ファブレス型の企画開発に専念し、スマイルカーブの左端と右端に特化する事業モデルを追求する。
日経新聞はウオークマン以後iPod、iPhone、iPadによってAppleによって完膚なきまでに席巻された、オーディオ、エンタメ、通信分野で、ソニーはEVの事業領域に参入してリベンジを果たそうと触れ込んでいる。
そして今回の吉田氏のCESでのプレゼンがその号砲になるとまで持ち上げている。
果たしてそうか?
TESLAの戦略
すでにEV事業で最先端を疾駆しているテスラの戦略を見てみよう。
ソフト・ウエアドリブンによる価値創造
テスラはすでに車を走るスマホに見立てて、OS、電子制御ユニット、マンマシンインターフェース、そしてエンタメ系のアプリもほとんど自社開発している。
またソフトはオプションごとに価格が設定され、その提供はサブスクで行われる。
これらのソフトは継続的にアップデートされ、通信経由でダウンロードされる。
主要部品の自社開発
テスラは電池、半導体などの中核部品を自社開発している。
顧客体験からNO提供価値の進化
テスラは販売した全車の走行データを収集し、その膨大なビッグデータを解析して車の継続的な進化につなげている。
その改善点は以下のように多岐にわたっている。
・バグフィックス
・セキュリティ
・自動運転関連
・利便性の向上
・パフォーマンス向上
・エンターテインメント
・コンフォート
Appleはさらに手強い
テスラが目指すように車が「走るスマホ」であるなら、iPhoneで世界を席巻したAppleこそEVにおいても覇者になりうるポジションにいる。この点でソニーはすでに太刀打ちできないポジションではないだろうか。
AppleはiPhoneでApple Carの制御を完璧に行うこと程度の目標は設定しているだろう。
またiPhoneの調達システムに倣って、ファブレスによるSCMを構築するに違いない。
この点はテスラと一線を画すことになるだろう。
このように見ると、ソニーカーのコンセプトはテスラにもAppleにも見劣りする。
唯一優位点があるとしたら、車をリビングに見立てているところだ。
これを突き詰めると、もはや車の形状は現状のセダン対応とは全くかけ離れたものになるはずだ。
さらに先を見て自動運転を前提とした時、車はもはや運転席、助手席のないボックスタイプのリビングやカラオケボックスのようになるまでの想像をしなければならない。
ここまでのコンセプト拡張を突き詰めるならばソニーにもリベンジのチャンスがあるかもしれない。
日産は2010年に世界に先駆けてEV・リーフを販売した。しかしリーフはその後の10年でテスラに大きく遅れをとり、今では世界の販売台数ランキングで第7位。テスラはリーフの約7倍の販売台数を誇示する圧倒的首位の座を獲得している。
日産リーフの敗北の要因はどこにあったのだろう。
日経新聞2021年11月30日に掲載された中山淳史氏は「早すぎた日産『リーフ』」と題して日産「リーフ」のテスラに対する敗北の理由を論考している。
中山氏の論点を整理すると敗北要因は以下の通りになる。
1. 世界の急速なEV化の到来を予測して10年で1000万台の市場規模を想定した。手っ取り早くシェアを取りに行くために。利幅が小さいコンパクトカーのセグメントに集中したしかし市場規模はそれほど伸びず実際には200万台にとどまった。結果的に薄利のまま台数も伸びず利益額で遅れをとった。
2. 政府のEV化促進の環境整備も本腰が入るまでには至らなかった。中山氏は遠慮気味に次のようなコメントをしている。「自動車産業が求めないのか、政府が気づかないのか。いずれにしても世界の趨勢に対し、日本だけがEVや再生エネルギーのうねりに気づかぬフリをしているように見えるのは、一つの事実だ」。実はトヨタとそれをサポートする経産省がEVに乗り気でなく、燃料電池車に中途半端な未練を寄せながら結果的に世界から遅れを取ってしまっている。
3. しかし決定的なリーフの失敗の要因日本のお家芸であるものづくりの発想による開発から脱却できなかったことだった。中山氏は次のように指摘する。EVによって「データを使った新産業が誕生する余地が大きい。各種調査機関によれば、将来はハードと同規模の『まだ見ぬ産業』が現在の自動車産業に乗っかるイメージだ。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は自動車新時代のバリューチェーンを10階層に分け、『10の選択肢』(下図参照)としてまとめる。ハードの支配とともに重要なのはOS(基本ソフト)やプラットフォーム、エコシステムの支配だが、今の日本車メーカーはEVをいつまでに何車種発売するか、の段階に議論はとどまる」。
テスラの戦略
EVで世界を圧倒するテスラの戦略を見てみよう。そこには従来の製造業の世界では想像もできなかった情景が広がる。まずは戦略が導かれるテスラの掲げるビジョンに触れておこう。テスラのビジョンは何と「スマホ型EVの開発」だ。
スマホを進化させてどこでも移動可能な車にするということだ。
このビジョンを実現するために必要な具体的な目標を三つ設定している。
1. ソフトウエアドリブンで顧客価値を提供する。ハードはソフトによってコントロールされるというアーキテクチャーが大前提だ。従って顧客に対する提供価値はソフトの価値の高質化によって決定的なものになる。そしてソフトは継続的に進化し、それをシームレスに利用するためにオンラインでアップデートされる。そのためにサブスクでの提供が前提になる。
2. 顧客体験による提供価値の進化。ソフトの進化は顧客体験に基づく期待や要望やクレームによって実現する。車は常時オンラインで繋がり、全ての人データが収集され、データの解析から改善点が抽出される。また販売も全てオンラインで実施され、ユーザーの要求地点で試乗が可能になる。
3. 主要部品は自社開発を原則としている。最も大切なエンドユーザーコンピューティングは当然自社開発であり、ここに競争優位の原点が集約されている。さらにバッテリーや半導体も自社開発することで顧客価値の継続的な進化が保証されている。
テスラの戦略ストーリーを図解すると下図のようになる。ここに示されたテスラの戦略ストーリーはこれからのものづくりの基本テンプレートになるに違いない。
日経新聞11月18日によると、円の総合的な実力を示す実質実効為替レート(以下「円実質レート」)は約50年ぶりの低水準に近づきつつある。
円実質レートは85年のプラザ合意以降80の水準から上昇を続け95年に頂点に達し150を記録した。
95年の日米合同の円売り協調介入以後は円安政策が継続的に行われて、継続的に低下傾向が続いた。
更にアベノミクスによって円安志向が強化され、日銀の異次元金融緩和策が実効レートの低下を加速させた。しかし
円高とグローバル化の進展は、円安が輸出企業にとって、すなわち日本経済にとってプラスの効果をもたらすという事実は消滅傾向に転換した。
この事実を軽視ないし無視して継続した円安政策は日本経済の25年に及ぶ衰退傾向をもたらしたのだ。
「かつては円安が製造業の輸出競争力を後押しし、経済成長に寄与した。多くの企業が海外に拠点を移すなどして経済構造が変わり、円安による日本経済の押し上げ効果は弱まった。国内総生産(GDP)に占める製造業の比率は1970年代の35%から、2010年代には20%に低下した」。
更に円安が企業の交易条件を改善する効果は今になって無くなるどころか、輸入原材料およびエルギー価格の上昇をもたらして、むしろ交易条件を悪化させる要因になっている。
企業の交易条件の悪化は企業収益の減少に繋がり、給与収入の抑制を結果する。
また円の購買力の減衰はほとんど海外からの輸入に依存する食料やエネルギーなどの消費財の価格上昇につながる。
輸入消費財の価格上昇は勤労者の所得の減少との相乗効果によって消費の低迷をもたらすことになる。
つまり円安が続く限り日本経済は更なる縮減傾向に陥いることになる。
このジレンマからの脱出の道はあるのか。
一つだけある。
25年続く経済の低迷状況からの離脱の道は個人消費の二大柱である食料とエネルギーの自給率を改善することをおいてほかはない。
またエネルギーの自給率向上は再生エネルギーへの依存によってのみ可能であり、食料自給率の向上は休耕地や耕作放棄地の活用によってのみ可能になる。
したがってこの二大カテゴリーの自給率の向上は奇しくも気候変動対策と軌を一にするという意味で起死回生の奇手になるのだ。
一般的な為替レートは日本と米国など2国間の通貨の関係を示す。実質実効為替レートは様々な国の通貨の価値を計算し、さらに各国の物価変動を考慮して調整する。
自国通貨の実質実効レートが高いほど海外製品を割安に購入でき、逆に輸出には不利となる。BISは2010年を100として実質実効為替レートを算出している。
低賃金だから物価が上がらない
日経新聞は11月12日に「値上げできない日本 鈍い賃上げ、円安で貧しく」と題する記事が掲載された。
企業の出荷価格は上昇しているのに、消費者物価に転嫁できず、企業の収益構造が脆弱化しているのだ。
根本原因は何か?
賃金が上がらない→需要が弱い→企業物価上昇を最終消費者価格に転嫁できない→利益が伸びない→賃金も上げられない、という悪循環が続いている、これが根本原因だ。
実態を見てみよう。
企業物価指数は10月に前年同月比8.0%と40年ぶりの上昇率に達した。
ところが消費者物価の上昇率は0%台。
そして4~6月期の個人消費は2年前より5%減少した。
また過去30年の名目賃金は日本ではわずか4%増加でしかなかった。
可処分所得で見ても、世帯人数2人以上の勤労者世帯で20年間に5%(月額2万4000円強)しか増えていない。
同じ期間に社会保険料は35%(月額約1万7000円)増えた。膨らみ続ける社会保障費が家計を圧迫している。
米国は物価上昇→金融緩和から離脱へ
米国の動向と比較してみよう?
米国では企業物価を追いかけるように消費者物価が30年ぶりの6%台になった。
そして過去30年の名目賃金は米国では2.6倍に達した。
結果的に7~9月の個人消費はコロナ禍前の19年7~9月と比べて10%増えた。
消費者物価の上昇を前提に米国は金融緩和政策の見直しに梶を切りつつある、
この先にあるのは低金利政策からの離脱だ。
日本は円安でさらなる消費減少へ
ところが消費者物価の上がらない日本は低金利政策を継続せざるを得ない。
そして彼我の金利差は円安を導く。
そして円安は輸入物価の上昇に直結する。
コロナ禍にあって輸入物価指数はすでに前年比で4割高い。
これに円安が加わると、輸入物価はさらなる上昇をもたらす。
エネルギーと食料を輸入に依存している日本にとって円安は個人消費にさらに大きくマイナスの影響を及ぼす。
当面の日本のデフレ脱却は低賃金と円安がの高い障壁となって立ちふさがり、出口は一層困難を増すことになる
日経新聞(11月2日)は「仏先頭に原発に回帰するEU」と題するThe Economistの記事を紹介している。
l EU加盟27カ国で今も原発を維持するのは13カ国だけだ。原発を禁じている国もある。そしてEUの政策決定に大きな力を持つ独仏2カ国は現在、原発を巡り真っ向から対立している。
l フランスが電力の7割強を原発で賄っているのに対し、ドイツは2022年までにすべての原発を閉鎖すると決めている。ベルギーからブルガリアまで様々な国がドイツに追随し、原発の新規建設計画を白紙に戻し、既に稼働中の原発は停止すると約束した。
l だがその後、世論は様変わりした。今回の原発を巡る論争では、ドイツが敗北する可能性が高い。ドイツは原発をクリーンエネルギーに分類することに反対しても、他の加盟国から十分な賛同を得られないことを承知している。オーストリアとルクセンブルクは恐らくドイツに追随するが、他に加勢しそうな国はない。ドイツはEUで最も力を持つと考えられているが、必ずしもそうではない。
l 一方、フランスはEU内での影響力をますます強めている。今やEUの多くの政策を巡る議論は仏の望む方向に進んでおり、EU各国が原発重視に再び回帰しつつあるのも、その一例だ。EU各国は、今や統制経済の色彩を強めつつある産業政策から、世界にEUの影響力を拡大させようとする外交政策まで、あらゆる面でフランスに同調するようになっている。
原発をめぐってのEU内での独仏の対立は仏が優位に立ち、EU各国は再び原発重視に回帰しつつあるというのだ。
原発路線への回帰の要因はこの記事からは読みとれない。
しかし50年までにカーボンニュートラルを実現する上で原発に依存せざるを得ないという現実的な状況が各国のエネルギー政策を転換しつつあると考えられる。
日本でも同様の認識が支配的だ。
しかしながら、日本の脱炭素政策は脱原発を前提に構築せざるを得ない宿命にあることを忘れてはならない。
なぜなら日本は世界でも稀に見る地震大国であるからだ。
東日本大震災の福島原発のメルトダウンは、津波による全電源喪失によって核燃料の冷却が不可能になったことが要因と理解されている。しかし実は福島原発は、全電源喪失以前に地震によって原子炉の冷却システムの配管、配線が破壊されていたことが主たる原因でメルトダウンしたことが明らかになっているのだ。
そして現在保有している全ての原発が耐震性において福島原発同様に重大な欠陥を有している。
いつ起きるかもしれない地震に備えて原発の耐震性を万全なものにしておくことは事実上不可能とさえ言えるのだ。
日本は従って原発に依存することなく50年までにカーボンニュートラルの課題を解決しなければならない。そして脱原発を前提とすることによって、エネルギー源を100%再生エネルギーに依存せざるを得ず、それゆえに再生エネルギーへの徹底した技術開発、投資そして運用システムの構築のプレッシャーが高まり、結果的に世界に先駆けて脱炭素世界を実現することが可能になるのだ。
つまり日本にとっては脱原発こそ脱炭素の切り札となるということだ。
以下は10月1日「脱炭素 深掘りめざす石炭火力の縮小が争点」と題する日経新聞記事に基づきます。
第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が英国グラスゴーで31日に開幕される。
石炭火力発電の廃止が論点に浮上している。
欧州には時期を明示して石炭火力を廃止する意向を示す国もある。
COP26の議長国の英国のジョンソン首相は、先進国は30年まで、途上国は40年までの廃止を求めている。
日本は30年度の発電の2割弱を賄う計画で、先進国としては消極的と批判の的になりそう。
カーボンプライシングの導入も論点の一つとなる。
炭素に価格をつけて企業の排出削減を促す排出量取引制度の導入も日本は遅れている。
途上国は最新技術や資金面でさらに途上国を支援するよう先進国に迫っている。
途上国の要求に先進国がどう応えるかも論点の一つになる。
気候変動対策において日本は大きく遅れをとっている。
10年前の福島原発事故を契機に日本中の原発が停止した。
この時点で原発を電源から外し、以後は再生エネルギーに依拠する電源構成を目指す意思決定ができていれば、再生エネルギー活用の技術革新が大きく前進して、今頃は気候変動対策において世界を牽引する立場に立っていたに違いない。
あの時点で原発ゼロの意思決定をせず、原発再稼働を前提に当面石炭火力やLNG火力に依拠して凌ごうとした姑息な決断が、今日の気候変動対策の周回遅れという困難の根本原因になっているのだ。
今からでも遅くはない。
原発ゼロの方針を明確に示し、50年の電源構成には原発はゼロとする計画をCOP26にて提示すべきだ。
それによって再生エネルギーの活用に向けて日本を挙げて全集中の取り組みが前進し、再生エネルギー立国の道が開けることになるはずだ。
さらに再生エネルギーは基本的に地産地消を前提にするので、再生エネルギー中心の電源構成は日本の貿易収支の改善に大きく寄与し、国富の面においても大きな貢献をするに違いない。
日経新聞の記事(10月1日)で初めてPCR検査の全面普及の必要性がはっきりとした形で表明された。
「『多数の感染者が潜在している可能性がある』。
東京都では第5波のピーク時、検査が必要な人が受けられない実態が問題視された。保健所の業務逼迫でスムーズに検査を広げることができなかった。
一方で安くても1回数千円を払う民間自費検査のニーズは高まっている。
厚労省によると、7月以降の自費検査は計500万回近い。公費による行政検査の6割超の水準に達した。
大規模な無料化を進める海外と、検査を受けるだけで苦労する日本とでは差が広がるばかりだ」。
日本の検査数の海外との格差は極めて大きい。
「英オックスフォード大の研究者らが運営するアワー・ワールド・イン・データによると、9月の1日あたりの検査数(7日移動平均)は人口1000人あたりオーストリアは40件前後、英国は15件前後、シンガポールは10件前後で推移する。日本は0.8件ほどにとどまる」。
異常を感じたら、あるいは感染者との濃厚接触がわかったらすぐに検査を受け、
その結果感染が確認されたら、即医療機関にて治療が始められることが、コロナ対策の基本であることは世界標準になっている。
それは以下の理由に基づく。
1. 感染初期に抗体カクテルなどの治療が始められれば重症化が防げる。
2. 無症状の感染者による感染を予防できる。
しかし検査の拡充のためには以下の条件が不可欠となる。
1. 検査が無料であるいは保険適用で何度でもできる体制が整えられなければならない。
2. 検査で感染が確認された時にすぐに受け入れてもらえる医療体制が整えられなければならない。。
こうした二つの要件が新型コロナ感染の初期から既に2年を経過しようとしているのに、いまだに明確な方向づけさえもできていない。
記事によれば、
「次期政権を率いる岸田文雄氏は自民党総裁選で無料のPCR検査所の拡大や、家庭での抗原検査普及を掲げた」ようだ。
第6波が来るまでに検査体制と医療体制の整備を今度こそ実現しなければならない。
残されている時間は2ヶ月だ。
以下のブログは日経新聞9月21日の「オピニオン」をもとにした論考となります。
格差是正を求めて失業率を下げることを目指した米国FRBの金融政策が、予想を上回る物価上昇を招いている。
結果として皮肉にも中間層以下の貧困化に繋がり格差は是正されるどころか拡大しつつある。
この現象を「スクリューフレーション」という。
「中間層の貧困化を指す『スクリューイング(Screwing)』と『インフレーション(Inflation)』を組み合わせた造語だ」。
「失業率は5%台に低下したものの、コロナ禍前の3%台半ばはまだ遠い。一方でインフレ率は1%から5%台に跳ね上がり、インフレ制御の是非を問われる事態になった」。
物価上昇が実質賃金の低下につながり中間層以下の購買力を損ね、格差をより拡大している。
「高い伸びが続く米消費者物価指数の内訳をみると、中古車やガソリンの押し上げが目立つ。車社会の米国では中低所得層の懐を直撃する。値上げの動きは食料品や家具・寝具など、生活に身近な品目で広がりをみせる。多くは新型コロナウイルス禍での供給制約や国際商品相場の上昇が背景にあるが、そうした理由では説明しにくい家賃や授業料の上昇率が再び高まり始めているのも気がかりだ」。
物価上昇の要因はこればかりでなく、FRBの金融引き締めの動きが金利の上昇を招き、これが引き金になって物価上昇の傾向が促されていることも考慮に入れなければならない。
ところで日銀もデフレ脱却を旗印にこの10年低金利政策による超金融緩和策を継続して来た。
しかし物価は一向に上向きに向かわず、賃金も全く据え置かれたままだ。
緩和マネーは株式と不動産に流れ込み資産家だけが雪だるま式に資産を傍聴させ、格差の拡大が進行した。
結果として消費は拡大せず、経済成長は停滞を続けた。
このような状況に加え新型コロナウイルス禍が新たな局面を開きつつある。
米国同様、国際商品の価格上昇と供給制約による物価上昇の兆しが見え始めているのだ。
しかも日銀は金融緩和策の解除の方向を探ることもしていないので、すでに金利引き上げの時期を探り始めているFRBとの政策ギャップから、今後は一層の円安に向かうことが想定される。
となると輸入に依存するエネルギー資源、食品など消費財は円安によってさらなる価格上昇をまぬがれ得ることはできない。
輸入消費財の価格上昇によるインフレが日本の中間層以下を襲う。
賃金の上昇も望めない状況で実質賃金が大きく引き下げられ、格差の拡大が進行する。
かくして日本経済はスタグフレーションの中でのスクリューフレーションで中間層の崩壊現象に一気に加速することになりそうだ。
以下は日経新聞9月17日に掲載されたギデオン・ラックマン氏(チーフ・フォーリン・アフェアーズ・コメンテーター )のコラムに基づくブログです。
習近平個人崇拝の中国人民への急激な浸透が進行する中で、
中国の国家的なリスクがマグマのようにたまり続けていく。
「習氏への個人崇拝は、中国の教育を受けた中間層や政府高官らにとっては本質的に屈辱でもある。
彼らは習氏の思想を毎日、特別なアプリを使って学ぶことを義務付けられている。
習氏の思索に対し尊敬の念を表明し、
『澄んだ水と緑の山は金山銀山にほかならない』
といった習氏の好む言葉を唱えることが求められる。
これをとんでもないとか失笑に値すると思う者は、
賢明にもその考えを口にすることはないだろう。
つまり、習氏の個人崇拝が進む中で中国の体制には今、
偽善と恐怖がどんどん染み込みつつあるということだ」。
中国の抱えるリスクとは何か。
それは習近平思想を絶対化するドグマと13億人の個々人の思想信条との相克だ。
習近平思想には中国社会が目指すべきビジョンが欠落している。
ビジョンが大多数の人民に共有されてはじめて権力は正当性を持つ。
ビジョン無き権力は恫喝と欺瞞と隠蔽とによる専制に向かわざるを得ない。
この時権力は恐怖によって人民を支配する。
恐怖が個々人の思想信条の自由を簒奪し、独裁制が完成する。
同時に10%の支配者層と90%の非支配者層との絶望的なほどの格差社会も完成する。
このような社会で多少の経済的な豊かさを得ることができたとして、
果たしてそれは人民の幸福を実現するであろうか。
少なくとも1億人だけでなく、12億人が自由闊達に生きることのできる社会こそ、
真に豊かな社会の実現につながるはずなのだ。
原子力規制委員会は8日、東京電力福島第1原子力発電所の廃炉設備の耐震設計で想定する最大の地震の揺れを引き上げた。(日経新聞9月9日)
しかしこの新基準でも原発を地震から護ることはできない。
「2月の福島県沖を震源とする地震を受けた措置で、900ガル(ガルは加速度の単位)の地震でも機能を維持できる耐震性を求める。廃炉作業の安全性を高める一方で、コスト上昇や作業の遅れにつながる可能性がある。
今後設ける使用済み燃料や溶融燃料(デブリ)を貯蔵する設備に適用する。従来の想定は最大600ガルだった」。
900ガルの新基準も原発設備を地震から護るには程遠い基準ということだ。
ところでガルとは、地震の大きさを表す指標の1つである加速度を示す単位。
2008年の岩手・宮城内陸地震では最大で4,022ガル、
07年の新潟県中越沖地震では柏崎刈羽原発の1号機タービン建屋1階で1,862ガル、
同3号機タービン建屋1階で2,058ガル、
同6号機原子炉建屋の屋根トラスで1,541ガルの揺れが観測された。
全国の原発でも、約600~1,000ガルの揺れを超える地震に見舞われることが十分にあり得ると言える。
また、これらの原発の耐震基準は原子炉本体や格納容器などの主要な部分のみに適用され、
緊急時に炉心を冷却する非常用炉心冷却装置や配管などの設備は別扱いだ。
つまり原子炉本体や格納容器が地震に耐えても、
原子炉を冷却する冷却水用の配管や電気系統が被害を受ければ核燃料のメルトダウンに繋がる。
ちなみに三井ホームの住宅の耐震設計は5115ガル、住友林業は3406ガル。
つまり原発に関わる耐震基準は住宅の基準に比べて著しく低い基準に設定されている。
なお1996年以降に起きた600ガル以上の大地震は以下の通りだ。
(気象庁調べ、最大震度6弱以上を掲載 ※1…K-NET(防災科学技術研究所)調べ) …計測震度5.5以上の観測地点が複数あった地震
https://www.homelabo.co.jp/select/history01.html
年 度 |
地 震 |
マグニ |
最大震度 |
最大加速度(gal) ※1 |
1997年 |
鹿児島県薩摩地方 |
6.4 |
6弱 |
977gal(鹿児島県薩摩郡宮之城) |
鳥取県西部地震 |
7.3 |
6強 |
1135gal(鳥取県日野町) |
|
2001年 |
芸予地震 |
6.7 |
6弱 |
852gal(広島県湯来町) |
2003年 |
宮城県沖 |
7.1 |
6弱 |
1571gal(宮城県石巻市牡鹿) |
十勝沖地震 |
8.0 |
6弱 |
989gal(北海道広尾郡) |
|
2004年 |
新潟県中越地震 |
6.8 |
7 |
1750gal(新潟県十日町市) |
2007年 |
能登半島地震 |
6.9 |
6強 |
945gal(石川県富来町) |
新潟県中越沖地震 |
6.8 |
6強 |
813gal(新潟県柏崎市) |
|
2008年 |
岩手・宮城内陸地震 |
7.2 |
6強 |
4022gal(岩手県一関市) |
岩手県沿岸北部 |
6.8 |
6弱 |
1186gal(岩手県盛岡市玉山) |
|
2011年 |
東北地方太平洋沖地震 |
9.0 |
7 |
2933gal(宮城県築館長) |
茨城県北部 |
7.7 |
6強 |
957gal(茨城県 鉾田市) |
|
長野県・新潟県県境付近 |
6.7 |
6強 |
804gal(新潟県中魚沼郡津南) |
|
静岡県東部 |
6.4 |
6強 |
1076gal(静岡県富士宮市) |
|
茨城県北部 |
7.2 |
6強 |
1084gal(茨城県高萩市) |
|
宮城県沖 |
7.2 |
6強 |
1496gal(宮城県石巻市牡鹿) |
|
福島県浜通り |
7.0 |
6弱 |
746gal(茨城県北茨城市) |
|
福島県中通り |
6.4 |
6弱 |
847gal(茨城県北茨城市) |
|
2013年 |
栃木県北部 |
6.3 |
6強 |
1300gal(栃木県日光市栗山) |
2016年 |
熊本地震 |
7.3 |
7 |
1362gal(熊本県益城町) |
内浦湾 |
5.3 |
6弱 |
976gal(北海道茅部郡南茅部町) |
|
鳥取県中部 |
6.6 |
6弱 |
1494gal(鳥取県倉吉市) |
|
茨城県北部 |
6.3 |
6弱 |
887gal(茨城県高萩市) |
|
2018年 |
大阪府北部 |
6.1 |
6弱 |
806gal(大阪府高槻市) |
北海道胆振東部地震 |
6.7 |
7 |
1796gal(北海道勇払郡追分町) |
|
2019年 |
山形県沖 |
6.7 |
6弱 |
653gal(山形県鶴岡市温海) |
新型コロナウイルス用の病床状況把握システムが機能不全だ。(日経新聞9月7日)
地域全体の病床の稼働状況を行政も医療関係者もリアルタイムに正確につかめないので、
感染者の入院調整に使えないというお粗末な状況が放置され続けている。
「病床の空き状況を把握する仕組みとしては厚生労働省の『医療機関等情報支援システム』(G-MIS)がある。
2020年春の第1波の際、神奈川県のシステムを参考に急きょ稼働させた。
21年7月時点で国内のほぼすべてにあたる約8300の病院、約3万の診療所が登録している。
医療機関がコロナ対応の全空床数や集中治療室(ICU)の空床数のほか、
受け入れ可能な患者数や回復後の患者数などを打ち込んでいる。
内容は保健所や都道府県の担当者が確認できる」。
せっかくシステムがあり、病院の担当者が必死に入力しているが、
何と現場はアナログの電話対応に追われる。
前日のデータを入力する仕組みのため、喫緊の入院調整に使いにくいのだ。
感染が拡大して刻々と変化する状況に追いつかず、
リアルタイムで実際に空いている病床を探すのは難しい。
国のG-MISとは別に自治体が固有のシステムを開発して、
相互の連携もなしに二重に運用されているという問題も混乱に輪をかけている。
「東京の医療機関は都が運営する別のシステムでの空床報告や保健所への連絡も求められている。担当者は『一日の半分以上は入力作業に関する業務に追われている』という。
都のシステムも防災対応が主目的で、入院調整には活用されていないのが現実だ。『苦労して入力しても何のために使われているのか分からない』との声が漏れる」。
使い物にならないシステムのために、
現場は重複する入力作業やデータ管理作業に翻弄されている。
せめて二重入力だけでも無くせないのか。
このような状況から二つの問題が浮かび上がる。
1. デジタルシステムの開発の最上流でシステムの目的が明確に定義されていなかった。
つまりこのシステムは何のために開発されるのかが明確でないまま開発が始まった。
「コロナ病床の空き状況をリアルタイムに把握して、感染者の入院調整、入院予約を実現する」という要件定義が明確にされていれば、
現状の惨状は起きていないはずだ。
2. こうした状況が1年以上も継続し、改善の兆しが見えない。
開発されたシステムは常時その不具合を監視し、
スピーディに改善することが必要だ。
このフィードバックループが存在しなければ、
システムは使われずに無用の長物になるか、
無理に運用することで現場に多大な負担と混乱を持ち込むことになる。
デジタルシステムが機能不全に陥る要因は上記の二つに絞られる。
日本の作業現場ではデジタル化しても生産性が上がらず、
逆に現場に重荷を負わせることになる風景は枚挙にいとまがない。
上記の日本のデジタル化につきまとうシステム「機能不全症候群」の病根を絶やさない限り、
日本の労働生産性はいつまでも低位のまま、
現場は「ブルシット・ジョブ(クソ面白くない仕事)」で溢れかえる状況が続く。
地球温暖化がヒトの対病原体抵抗力を無力化する
地球温暖化による気温上昇は気候変動だけでなく、ヒトに対する病原体の多様化というリスクをもたらす。(9月5日日経新聞)
「ヒトをはじめとする哺乳類や鳥類などは、一定の体温を維持して自然界にいる病原体から身を守っている。
体温は皮膚や免疫反応と並ぶ防御の盾だ」。
つまりヒトにとって害をなす微生物やウイルスの増殖温度帯は、ヒトの体温より低い。
ところが地球温暖化が進むにつれて、ヒトの体温を超える温度帯で増殖する能力をもつ病原体が出現し始めている。
つまり温暖化で暑い日々が当たり前になれば体温による対病原体防御機能は弱体化していく。
「最悪のシナリオはこうだ。
高温で生き残った『耐熱性』の病原体は、苦手としていたヒトの体温をやりすごせる。
今はヒトの体温よりも低い温度の爬虫(はちゅう)類や昆虫などの体にいる病原体も、
ヒトの体にやすやすと乗り移れるようになる」。
米ジョンズ・ホプキンス大学のアルトゥーロ・カサデバル博士はいう。
「このままでは人類が危うい。
微生物やウイルスは世代交代が速く、温暖化とともに高温に合うように進化しやすい。
同じようにヒトの体温が急速に上がるとは思えない」
地球温暖化による病原体の多様化は、高温に対応する病原体の増加だけではない。
シベリアの永久凍土の溶解によって、凍結していた未知の病原体が活性化してヒトを襲うことが危惧されている。
COVID-19によるパンデミックだけでも人類は世界中で大きな被害を蒙っている。
地球温暖化によって同様の破壊力を持った病原体が多数出現するとしたら、人類の持続可能性は今考えられているより速いスピードで失われることになるかもしれない。
日経新聞は「脱炭素を阻む省庁縦割り不毛な綱引き」(8月26日)と題して、日本のカーボンニュートラル戦略推進の停滞を批判する記事を掲載した。
「菅政権は2050年の炭素排出実質ゼロを掲げ、日本のエネルギー政策は脱炭素にカジを切った。実現に向けたエネルギー基本計画や、炭素に価格をつけるカーボンプライシングの議論では省庁間の縦割りや不毛な綱引きばかりが目立つ。国全体の視点で、脱炭素を本気で成長戦略の柱に据える覚悟は見えない」。
日本のグリーン政策に関係する省庁は、経産省(エネルギー全般)と環境省(気候変動対策全般)が主体となっている。
これに加えて、文科省(科学技術、研究開発)、国交省(航空、船舶)、農水省(森林保全、農地活用)なども主導権をめぐって足並みは揃わない。
他国ではどうか?
「エネルギー政策は、英国では独立した政府諮問機関の気候変動委員会が司令塔を担い、スペインは省庁を一元化した」。
日本では、気候変動対策推進室が内閣官房に新設されたが、省庁間の綱引きの調整では十分に機能していない。
根本原因は縦割り行政か?
この記事で見落としている重要な事実がある。
それはグリーン政策の停滞の要因は司令塔が存在しないということではないということだ。
最大の要因は経産省が原発依存の政策を頑なに保持したまま、エネルギー政策の主導権を握って手放さないばかりか、強力な不協和音を発してグリーン政策推進を撹乱していることだ。
福島原発事故を経験した地震大国日本にとって、原発の即時停止は、リスク回避の観点からエネルギー政策の前提としなければならないのは自明のはずだ。
そればかりか、再生エネルギーのコスト構造が30年には、原発のオペレーションコストを大幅に下回るようになることも、50年を見据えたエネルギー政策において原発の立ち位置はないことを明らかにしている。
このような原発をいまだにエネルギー政策の中心から外す意思を捨てない経産省が存在することが、「脱炭素を阻む」根本原因だと言わざるを得ない。
経産省を解体すればグリーン政策は快進撃を始める
そもそも経産省の役割は90年始めのバブル崩壊後に終焉を迎えているのだ。
この30年の経産省の産業政策は、半導体産業再生、液晶ディスプレイ産業再生、原発推進政策、クールジャパン構想などなど、すでに韓国の遥か後塵を拝する死屍累々の光景を呈していることからも自明のように失敗の連続だ。唯一生き残ったかに見える自動車産業もEV化に乗り遅れて、10年後には衰退に向かっているかもしれない。
つまり経産省は今やいわばゾンビ省庁として生き延びているにすぎない。その有害無益の経産省がいまだに産業、エネルギー政策の「司令塔」のような立場で邪魔をしていることが、カーボンニュートラル推進がいまだに軌道に乗らない諸悪の根源なのだ。
今こそ経産省を解体して環境省を中心とするグリーンエネルギー政策の推進体制を再構築するべきなのだ。
経産省解体はグリーン政策推進に拍車をかけることだけではなく、日本の産業構造をソフト化する産業政策を大きく前進させる契機になるに違いない。
8月22日の日経新聞に、ウイルスに関する興味深い記事が掲載されていた。
以下はその記事の紹介。
芋虫がハチの寄生から身を守る「蜂殺し遺伝子」の働きが解明された。
突き止めたのは東京農工大学の仲井まどか教授らとスペインやカナダの大学などの国際チーム。
この蜂殺し遺伝子を芋虫にもたらしたのが、
芋虫に感染するウイルスだったことから驚きが広がっている。
あるウイルスが芋虫と寄生バチ同士の争いに介入していたのだ。
発見の端緒は、
このウイルスがいる芋虫にはなぜか寄生バチの卵や幼虫が育たない、
という事実だった。
ところでこのウイルスは芋虫に感染し自らを増殖する。
一方、寄生バチは芋虫に卵を産みつける。
卵からかえった幼虫は芋虫を食べて育ち、やがて巣立っていく。
ゆえにこのウイルスは芋虫を死に追いやるハチと敵対関係にある。
そこでウイルスは、寄生バチを敵とする芋虫に肩入れする戦略を立てた。
ハチの卵や幼虫を死滅させる毒をつくる遺伝子を芋虫に組み込む戦略だ。
感染した芋虫の体液から見つかった毒となるたんぱく質は、
「アポトーシス」と呼ぶ作用で寄生バチの卵や幼虫を死滅させていた。
この毒をつくるのが蜂殺し遺伝子だ。
芋虫とウイルスは双方の利害対立を越えて手を組んだ。
「ウイルスにとって免疫を備えた芋虫は敵だ」。
「芋虫にとって命を奪う寄生バチよりも体調不良で済むウイルスの方がマシだ」。
結果的には、ウイルスは助け舟を出しながら、芋虫を増殖に利用することが可能になった。
ウイルスの戦略はしたたかと言わざるを得ない。
ところで変異を繰り返しながら猛威を奮うCOVID19は、
人類を敵とみなして人類を死滅に追いやろうとしているようにも見える。
とするなら人類はこのウイルスの生存を脅かし、
その反撃を受けているのかもしれない。
つまりウイルスと芋虫と寄生蜂に擬えるなら、
寄生蜂が人類で、その人類が芋虫に相当する何かに危害を加えることで、
ウイルスを窮地に追い込んできたということだ。
そしてウイルスからその反撃を今受けているのではないか?
果たしてそのウイルスを窮地に追い込んだ何かとは?
例えば地球環境の破壊を続ける人類の所業が、
これまでウイルスの増殖の培養地であったある生物を死滅に追いやり、
その結果ウイルスは生存を脅かされており、
ウイルスはその危機を脱するために、
人類に猛威をふるっているのかもしれないのだ。
したたかなるかな、ウイルスの生存戦略。
インド型(デルタ型)の猛威で新型コロナの感染者は急増した。
8月20日現在、全国の新型コロナ療養者の実態は以下の通りだ。
療養者数 167,588人
入院者数 21,590人
内重症者数 2,591人
宿泊療養者数 18,030人
自宅療養者数 96,857人
療養先調整中 31,111人
内入院先調整中 1,858人
発症している人のうち入院できている療養者はわずかに13%でしかない。
約13万人の方が自宅で不安と恐怖に向き合っている状況なのだ。
この状況を生じている要因はコロナ対応可能な病床数が圧倒的に少ないことにある。
発症者を受け入れる病床数の実態は以下の通りだ。
即応病床数 36,314床
内即応重症病床 5,157床
8月20日時点での発症者が13万人に対して即受け入れ可能な病床数は3万8千床しかない。
1月上旬の約2万8千床から上積みできたのは8千床のみだった。
ところで厚生労働省によると4月末時点の一般病床約89万床の使用率は66.5%。
約30万床もの空き病床が存在しているのにコロナ対応には役に立っていない。
全病床に占めるコロナ病床の割合は、ワクチン接種が進む前の段階で英国では2割、米国では1割を超えたが、日本では最大4%弱にとどまる。
これにはいくつかの理由がある。
一つは1病院当たり10床未満の病院が少なくないということだ。
欧米諸国では、100床単位でコロナ対応病床を集約して医療資源を有効に使っている。
日本では大規模病院の数が圧倒的に少ないということだ。
もう一つはコロナ即応病院が積極的にコロナ患者を受け入れていないという状況があるのだ。
「7月29日時点、コロナで入院している患者は都内に約3000人。
確保病床の半分にすぎないのに、
一部病院からは『ほぼ満床状態』『退院直後に新規入院がある』と悲鳴が上がる。
ある病院関係者は『政府の補助金を受けて病床を確保しながら、
積極的に患者を受けない病院がある』と明かす」(7月22日日経新聞)。
新型コロナ対応病床の増加がこれ以上期待できない状況を踏まえて、
医師会が野戦病院方式の導入を提案している。
体育館や公会堂などの大規模施設に病床を可能なかぎり並べて、
専門の医療スタッフが先端的な医療機器と投薬で対応しようという方式だ。
現在自宅療中の発症者をここで受け入れて、発症初期に治療を行い、
万が一重症化したら即時に重症者対応病院へと移送することが可能になる。
軽症者を重症化させないための初期対応がもっとも大事なことだと言われている。
重症者を増加させないことが新型コロナとの闘いで最も大事なことだ。
そして何よりも医療スタッフからのケアもなしに、
自宅で不安に苛まれる療養者がゼロになる状況を一刻も早く作ることが政治の役割だ。。
河川の氾濫や大地震などの緊急時に、住民が公民館や体育館に避難するように、
新型コロナも緊急事態であるとすれば大規模な「避難先」を設けて、
住民の安全を確保することは至極当然のことに他ならない。
政府が一刻も早くこの方式の導入を宣言し、自治体に対してこの方式の早期実現に向けて予算を十分に付けて指示を出すことが望まれる。
まだ30兆円ものコロナ対策用補正予算が執行されずに待っている。
経産省は2030年時点での電源別のコスト試算を公開した。
これによると太陽光発電のコストが原子力発電のコストを下回り最低コストになる。
今回の試算は電気を安定して届けるためのコストを含んでいない。
天候による電力供給の不安定を別電源で吸収したり、夜間の供給のために蓄電するなどの調整コストは含まれていない。
経産省はこうした調整コストを含めた発電コストを「限界コスト」と定義。
参考値として示した。
「それによると、事業用太陽光は30年時点で18.9円、陸上風力は18.5円だった。
一方、原子力は14.4円、
LNG火力は11.2円、
石炭火力は13.9円で、
いずれも太陽光と風力を下回った」。
50年までにカーボンニュートラルを実現する目標を政府は掲げている。
今回の試算はこの目標達成のための電源構成を作成するための前提データになる。
この試算には二つの問題が含まれている。
1. 再生エネルギーによる発電コストの世界標準に比して日本のコストは異常に高い。
「エネルギー白書2021」によると2019年における再生エネルギーによる発電コストは、以下の通りだ。
洋上風力 0,12¢
太陽光 0.07¢
陸上風力 0.05¢
水力 0.05¢
2. 原子力発電の「限界コスト」には、使用済み核燃料の廃棄コスト、原発事故による被害補償のための損害保険料などは含まれていない。
経産省は「限界コスト」などという曖昧な概念を持ち出して、
30年においても原発のコストが太陽光を下回ると主張している。
その背景には原発に依存する電源計画を策定する意図がありありと透けて見える。
しかし原発は一刻も早く停止し、全てを廃炉に持ち込むことが最善策だ。
福島の事故ではいくつもの奇跡的な偶然が重なって、
東日本の壊滅的な被害を回避できた。
原発事故は発生すれば取り返しのつかない被害を及ぼし、
また激甚な災害をもたらすリスクを予めヘッジすることも不可能なのだ。
原発を即時停止し、原発に依存しない電源計画を持つことは、再生エネルギーの急速な普及とコストダウンの劇的な進展を促す。
福島事故を受けてドイツのとった原発脱却政策がこのことを雄弁に物語る。
先に見たように日本の再生エネルギーの普及の著しい遅れとコストの高止まりは、いまだに原発を主力電源として温存する政策が最大の障壁になっているのだ。
原発に見切りをつけることが日本にとっても、再生エネルギーの普及と大幅なコストダウンのための突破口になることは間違いない。
東日本大震災からの日本の復興はここから本当の意味で始まる。
日経新聞は4日付け朝刊で、「円安が安い日本を生む」と題する記事を掲載した。
「日本経済にとって円安はプラスなのか。
日本経済研究センターが15年の産業連関表などから分析したところ、
デメリットの方が大きい。
『外貨建てで輸出する商品の円換算額が増え、売上高が膨らむプラス効果』と、
『輸入品が値上がりしコストが増えるマイナス効果』を比べると、
対ドルで10%の円安になった場合、
国内生産額比で0.5%デメリットが上回る」。
これまでは円高は輸出企業に打撃を与えることから、
円高=株安という図式が信じられてきた。
しかも輸出で稼ぐ日本企業はより安い人件費を求めて、
あるいは為替変動の影響を最小化するために、
さらには物流費の極小化を求めて海外に工場を移転してきた。
工場の海外移転は、
円安による売上高の嵩上げ効果を更に奪うことになっている。
しかしアベノミクス以降の政府の経済政策は、
円安=株高を一途に追い求め、
「異次元の金融緩和」を演出してきた。
ひたすら円安に固執した結果何が生じたか。
1. 企業による競争優位の創出策が、提供価値の継続的革新ではなく、円安による低価格に依拠することになった
2. 低価格依存の競争優位策は人件費の削減を求めることにもなり、非正規雇用の拡大とベースアップの終焉を迎えることになった。
(1) 「経済協力開発機構(OECD)によると、
主要国の平均年収は00年以降1~4割上昇し、
日本だけが横ばい。
(2) ドル建ての賃金水準は韓国より1割近く低い」。
もはや賃金水準は新興国並みに。
(3) 賃金の伸び悩みに社会保険料の増額、
消費税増税、さらには円安による輸入食品、
エネルギー価格の上昇が加わり、
日本人の購買力は落ちて、貧しくなった。
かくして「貿易量や物価水準を基に総合力を算出する円の『実質実効レート』は、
ニクソン・ショックからピークの95年まで2.6倍になった。
その後は5割低下し、
73年の水準に逆戻りしてしまった。
円の弱体化は世界の中での日本経済の地盤沈下をそのまま映し出している」。
日本をひたすら貧しい国に引きずり込んでしまった、
アベノミクスの罪は極めて大きい。
ダイヤモンド・オンラインの編集委員竹田氏は、
日本が20年間もの間賃金の上がらない国になってしまったと報告している。
https://diamond.jp/articles/-/278127?page=2
「OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本の平均賃金(年間)は2000年時点、3万8364ドル(約422万円)で加盟35カ国中17位だった。20年には3万8514ドル(約423万円)と金額はわずかに上がったものの、22位にまで順位を下げた。過去20年間の上昇率は0.4%にすぎず、ほとんど『昇給ゼロ』状態。これでは『給料が上がらない』と悩む日本人が多いのも当然だろう」。
トップの米国の平均賃金は6万9391ドル(約763万円)で、日本は率にして44%の大差が開いている。OECD加盟35カ国の平均額の4万9165ドル(約540万円)に対しても22%低い。
なんと日本の平均賃金は19位の韓国に比べてさえ、3445ドル(約37万9000円)低い。
下図は、日米欧主要7カ国と韓国の平均賃金の推移を過去20年間で見たものだ。韓国だけでなく、米国やカナダ、ドイツなども賃金は顕著な右肩上がりで伸びている。「昇給ゼロ」状態なのは日本とイタリア(マイナス0.4%)だけである。